日差しのきつい午後一時、容赦なく地上を照りつける太陽に音を上げて、手で扇ぐというあまり意味の無い行為をする。隣の彼は暑さが弱点らしく、自分より遥かにつらそうだった。日陰とはいえこのままでは倒れてしまうだろう。イナズマジャパンの日々の特訓に取り組むからに心配するほどヤワじゃないかもしれないが、黙ったままつらそうに呼吸を繰り返す彼を見たら心配せずにはいられない。そこで、名案とばかりにジェラートを食べにいこう、と言い出したら彼は頭上にクエスチョンマークを浮かべんばかりに首を傾げた。日本人には馴染みが無いのだろうかと、イタリアの夏では定番の味を紹介する為にも先日発見したジェラートの店に案内することにした。
程良く混んでいる店内で、ケースの中を目を輝かせて見つめる彼を見つめる自分。連れてきて良かったな、と純粋に思った。



「どれにするの?」
「か、考え中…」
「早くしないと順番来ちゃうよ」



至って真剣な表情の彼が微笑ましくて急かしてからかう。慌てて動く緑色の目が止まった先は、彼の髪と同じ色をしたストロベリーのジェラート。しかし一口にストロベリーと言っても、それだけで五種類以上ある。ストロベリーに狙いを定めたは良いものの、そこからまた悩み始めた彼が可愛くて笑いを堪えきれない。予想通り、順番はすぐ回ってきて、彼に何にしたのか聞いた所、まだ悩んでいる様子ながらも、意を決して「ストロベリーチーズ」と答えた。



「何と悩んでたの?」
「これと、ベリー系のがいっぱい入ってるやつ…フィディオ君は何にするの?」
「じゃあ、俺はそのベリー系のにするよ」
「え?」



後であげるよ、と言うと、それだけのことなのに、ありがとうと盛大に感謝された。両手を握られブンブンと上下に振られる側と振る側は周囲の視線を集め、受付の店員の眼差しを和やかなものにしたけれど、彼の幸せそうな笑顔を見れたのなら気にしない。それぞれ店員からジェラートを受け取った後、混んだ店内を後にして急いでイタリア地区内の近くの公園に向かった。日陰のベンチに座って、スプーンを手にジェラートを掬おうとした時、彼は手を合わせて小さく頂きますと言った。今度は自分が首を傾げる番で、なんとなく彼を真似てイタダキマスと言ってみる。掬った淡い紫色のジェラートを口に入れると、何かのベリーの酸味と苺の甘さが広がった。この前食べたストロベリーヨーグルトよりも好きかもしれない。チームの皆にも教えよう、と考えた所で、耳に飛び込んできたほああという気の抜けた声。



「美味しい…」
「あはは、良かった!」



隣で感動する彼に、自分のジェラートを差し出す。彼は嬉々としてスプーンを伸ばし、淡い紫を掬って口に運んだ。すぐに、こっちも美味しい!と、歓声を上げる。



「俺も、ヒロトの一口食べたい」



良いよ、とジェラートを差し出そうとした彼の前で、口を開ける。最初は分からないような表情をした彼の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。



「声付きで」
「…一回、だけ、だよ」
「うん」



淡いピンク色のジェラートを一掬いした彼は、人目を気にしてまだ手を伸ばさない。しかし人が居ないと分かれば、顔を真っ赤にさせて、躊躇いがちにスプーンを自分に差し出した。



「…あ、あーん」
「ん!」



ぱく。チーズのまろやかさと苺の甘さが口内に広がる。それよりも、恥ずかしそうな彼に、間接キスだね、と言うと小さく叩かれた。



「ねえ、キスしていい?」
「今は駄目!」
「後ならいいんだ?」
「なっ」



揚げ足を取られて言葉を詰まらせた彼の口が、それでも何か言おうとぱくぱくしている。その光景が微笑ましくて、無意識に口角が上がってしまう。顔全体が紅潮した彼が、敵だなんて構わずどうしようもなく愛おしい。デザートという食後のデザートか、楽しみだな、と意地悪く呟いてもうだいぶ溶けかかったジェラートにスプーンを伸ばした。





20100903




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