分かってしまったからだ。



親からの愛情を知らずに育った者が多いあの場所では、私は珍しく母親と父親を知る者だった。一度知ってしまった受動的な愛情が電話一本で断ち切られた瞬間、私はこの世のもの全てを憎んだ。返してくれ、と。親戚を転々とした私が行き着いたのは、愛に飢えたあの場所だった。そこで私は、私を引き取ってくれた方の息子に会った。奴だけは、あの方の息子になれたのだという。そう笑顔で奴は語っていたが、私は言い知れぬ違和感を感じた。何故奴だけがあの場所で特別になれたのだろうか?他の奴らにとっては最大の不公平ではないのだろうか。当時なかなかに物事を知っていた私にとって、それは理解し難いことだった。



あのときまでは。



とても気味の悪い笑顔を湛えた奴を見た。あんなものは初めて見た。鳥肌が立った。背筋が凍った。現れた方角から、珍しく叱られたのだろうかと、あの方に訊ねる為に私は部屋に向かった。あの方は居なかったが、そこで見つけた写真立て。私は衝撃を受けた。そこに写るものを見て。奴とは思えない成長した体格や表情から、全てを理解した。何て可哀想な奴!



「あの方は選択を誤った」



あの方が私でもやかましいあいつでもなく奴を選択することなど目に見えて居た。しかし、私は飛び抜けて哀れな奴に同情していた。せめて、せめて更に奴が苦しい立ち位置に行かないように引き止めることが出来たなら――しかし結局それは無駄だったのだ。どうしてか?馬鹿な奴は私の制止の腕を振り切って自分から行ってしまったからだ。とんだ馬鹿だ。流石に呆れる。そんな世の末みたいな顔をして、どこへ行こうと言うのか。それでも私は止められない。



分かってしまったからだ。








[理知]
知識、論理に基づいて物事を判断・理解する能力




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