愛されたかったからです。



思えば俺はいつも愛に飢えていたのだと最近解りました。痛みと悲しみで塗りたくられた本当の両親との記憶。まあそんなものはとうの昔に二、三回くらいしか呼ばれなかった自分の名前と共に捨ててしまいました。そして行き着いたあの場所の生活。不幸な俺は父さんの息子、姉さんの弟になることが出来ました。新しい家族との記憶。新しい名前。俺はどちらもとても愛おしいと思いました。父さんの隣に座って姉さんの作ったご飯を食べたこと。サッカーが上達する度に褒められたこと。父さんと姉さんが呼ぶ三文字――俺の名前。ああ、全てが愛おしかったのです。



あのときまでは。



見てしまいました知ってしまいました分かってしまいました愛していました。自分の存在理由を。居るだけで愛されるその意味を。伏せられた写真立ての中の俺であって俺でない笑顔。それは俺の笑顔などでは取って代われないのです。何故なら俺の正体は写真の彼の代替模造偽造似非紛物だからなのでした。ずるい!父さんも姉さんもずるいなあ!自分たちばかりで、結局俺は誰からも愛されてなんていないじゃないか!



「それでも良かった」



絶望の代わりに覚えたこの感情は、きっと愛憎だったのでしょう。俺を見るその目は俺を見ていない。俺を呼ぶその名も声も俺を呼んでなどいない。俺に差し伸べるその手も何もかも、俺のへのものではないのです。これは憎しみ。偽物に向けられた偽物の愛情。しかし俺はそれでも構わなかったのです。これは愛おしみ。あの日から俺は写真の彼のように、よく笑うようになったと思います。



愛されたかったからです。








[理想]
追い求める完全・最高の状態




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