夕暮れ時、空一面が橙色に染まる。そんな豪華な景色を背に、リュウジとヒロトは共にサッカーの特訓をしていた。共にというよりは、ヒロトがリュウジに指導しているというニュアンスの方が大きかった。
ボールを蹴る音がグラウンドに響く。


「パスを受けてからのドリブルが遅くなってるぞ!もう一回!」
「ああ!」


ヒロトの指摘は常に正しく、その度に的確なアドバイスをくれた。リュウジは、最初はその的確さに驚きさえした。しかし、それだけ自分を気にかけてくれていると、自分なりの都合のいい解釈をしては内心嬉しくてたまらなかった。
そうして特訓に熱中するにつれ、太陽が地平線に消えていき、すっかり辺りが夜に染まる。体力的にも限界を迎えていた二人は、グラウンド隅のベンチに腰掛けていた。二人は先程の特訓の話だけでなく、イナズマジャパンのみんなから食堂の話までといった、他愛のない話をしばらく続けていた。
そうして会話をするうちに、リュウジはとある違和感に気がついた。どうも彼の右側でリュウジの話に相槌を打って笑っているヒロトの視線が、ちらちらとヒロト自身の右足首を向いている。更に、時たま手を添えて、揉みほぐすような仕草をしている。流石におかしいなと思った時、リュウジは差し入れの話を中断した。


「…ヒロト、右足、どうかしたの?」
「うん?どうもしてないよ」


そう答えたヒロトの声は変に高かった。リュウジは更に不信感を増し、手を伸ばしてついに強行手段に踏み出した。リュウジの意図を掴んだのか、何もないと言った筈のヒロトは自身の右足首に向かって伸びる手を避ける。その際、大きく避けすぎたのかベンチの脚に右足をぶつけてしまった。小さく唸って忽ち痛みに歪んだヒロトの顔をハッキリと見たリュウジは伸ばした手を引く。


「…足首、見して」
「は、はい」


有無を言わさぬリュウジの言葉に気圧されて思わず敬語になったヒロトは、お手上げとばかりにため息をついてベンチの上に右足を出した。リュウジは出されたヒロトの右足の靴を脱がし、ソックスを下ろした。病人レベルの白い足に少し緊張したが、やはりリュウジの予想通り、足首は赤みを帯びて少し腫れていた。気まずそうに一連の動作を見ていたヒロトは「ごめん」と小さく謝った。


「…何でもっと早く言わないの」
「大丈夫かなって、思っ…て…ね?」
「…ばか」
「ごもっともです…」


背中を丸めて縮こまる、仮にも元上司。イナズマジャパン、または自分との特訓中に怪我をしていたのかと思うと、彼にはもっと反省が必要だと、リュウジは思った。しかし、何故自分はヒロトの怪我に気づかなかったのかと考えると、情けなくなったのも事実だった。
とにかく今一番必要なのはヒロトの足首の処置である。リュウジはベンチから立ってヒロトの前にしゃがむと、ヒロトに背中を向けて両手を後ろに構える。


「歩けないだろ」
「え、でも」
「いいから乗る!」
「はっはい!」


そろそろと立ち上がったヒロトは、躊躇いがちにリュウジの背中に身を預ける。前かがみになって勢いよく立ち上がったリュウジは、負ぶさったヒロトが予想外の軽さで驚愕に目を見開いた。当の本人はそれを真逆に受け取り、「重くてごめんね」と苦笑いしながら言った。リュウジは思わず盛大に首を横に振った。


「リュウジの背中は暖かいね」


不意にそんなことを耳元近くで呟かれる。おんぶという体勢が体勢だけにヒロトとリュウジは密着せざるを得ない。その距離に心臓がうるさくなる。リュウジは鼓動がヒロトに伝わっていませんようにと願いながら、ヒロトの呟きを脳内で繰り返した。


「汗だくで熱いの間違いじゃない?」
「はは、そうかも」


リュウジは自分で言いながら、汗でべたつく背中にヒロトを乗せていることが少し恥ずかしくなってきていた。ヒロトが不快に思っているのでは、と考えるが他に方法は無い。いや、おんぶ以外にもヒロトを運ぶ方法が一つ思い浮かんだが、想像するだけでも恥ずかしくなった。


「でも…やっぱり、暖かい、な」


そう言った直後、ヒロトがすうすうと寝息をたてているのが伝わった。疲れていたのだろう、しかし全て自分に任せたまま眠ってしまったヒロトに不満を覚えたリュウジは、部屋に着いたら寝顔の一つでも撮ってやろうかと画策した。





20100810




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -