天気予報が告げる酷暑の文字。知らされなくとも身を持ってその暑さを実感せざるを得ない8月。外に一歩踏み出せば、照りつける太陽と無数の蝉の鳴き声にため息をつきたくなる。よって風介は、サッカーすらする気になれず熱の籠もる室内でソーダ味のアイスをかじりながら扇風機に張り付いていた。ヒロトの意向により、節約の為に午前中はクーラーが使えない。生きることと一時の暑さを秤にかけられてしまっては、流石の風介も文句の一つも言えなかった。しかし元来暑さが苦手な彼にとって、その一時を耐えしのぐこともまた大変な苦行だった。
首振りに設定された扇風機に従ってウロウロする風介の側でチラシを凝視していたヒロトが、風介を非難する。


「ちょっと風介、風来ないんだけど」
「…暑くて溶けそうなんだ」
「俺も暑いの。晴矢がアイスをお土産にもうすぐ帰るってさ」
「…ふうん」


こんなクソ暑い中、あの馬鹿は元プロミネンスの奴らとサッカーをすると言って今朝出掛けて行った。晴矢の五月蝿い足音で目が覚めてしまった風介は朝から晴矢と少し言い争いをした。きっとアイスは詫びのつもりなのだろう。馬鹿にしては気が利くじゃないか、と鼻で笑ってアイスをかじる。


「風介、これどっちが良いと思う?」


手招きされてチラシを覗き込む。どうやらさっきから見ていた物は新しい食器だったようだ。強調される大特価の透明な食器は涼しそうで、いかにも夏らしい。ヒロトの指はその透明な食器のうちの二つ、小鉢タイプと平皿タイプを指差していた。


「こっちは冷やし中華でもいいし、こっちは冷しゃぶとかに使えそう」
「冷やし中華がいい」
「やっぱり?俺もこっちかなって思ったんだ」


じゃあ明日は冷やし中華かな。そう楽しそうにチラシを畳んだヒロトの笑顔からふと逸れた風介の目線は、赤い髪から覗く真っ白な項を捉えた。日の光が当たらない箇所とはいえ、白すぎる肌に雪を連想した。次の瞬間には、何の躊躇いも無くヒロトの項に手を伸ばしていた。


「ひゃっ!?ちょっ、と……風介?」
「冷たい…」


熱の籠もった手に、ひんやりと冷たさが広がる。もう片方の手は生憎アイスで塞がっていたので、同じく熱の籠もった両足をヒロトの白い両足に絡めた。


「基山は冷たくて気持ちいいな…」
「…俺は暑くてたまらないんだけど…」


それでも決して振り解こうとしないヒロトに甘え、扇風機の風を背にして、頭を彼の肩に預ける。暑さに火照った体が忽ち涼しくなっていく気がした。なるほどと、クーラーの無い午前中の過ごし方を新たに発見した風介は、これなら夏も悪くは無いと考えた頃、片手に握りしめたアイスはとっくに液状化への道を辿っていた。





20100810




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