I'll never forgive you
ミーンミーンミーン。ツクツクボーシ。ツクツクボーシ。ミンミンミンミーン。
高専は、山奥に、ある。後は察して欲しい。クソ暑い夏の昼、茹だる室内、冷房を最低温度最大風速で点けようが大して利きやしねえ、クソオンボロ寮の一室。チューペットを傑と分け合い、パイオハザードの続きをしている。普通に怖え、いきなり背後からゾンビ現れた時の吃驚が楽しい。傑と一緒だから超楽しい。けど、セーブポイントに来たらいきなり傑がポーズしやがった。俺を後ろから抱きかかえる状態でラブラブプレイしてたっつーのに俺の身体に軽く回ってた腕が離れていく。傑が俺を裏切った。さっきからイチャイチャしてた癖にセックスしねぇの?据え膳食わねえの? ヤんないかちょっと期待してたのに。
「そろそろ洗濯物を入れなくちゃ……」
「忘れてた。ありがと傑、愛してる」
「チューペット。冷凍庫の中の最後の一本は頂くよ」
「っは!?んなら俺も手伝う!」
「忘れたのかい?作ったルールを。最後の一つ食った方が買い足せ。悟、よろしく」
「忘れてねぇからやるつってんだよ傑てめえズリぃぞ!」
ガラッ。
慌ててベッドから這い出るも無念、伸ばした手は届くことは無く傑がベランダへと続く窓を開け、熱風が、熱風、おい早く閉めろよ、
「ッギャアアアア!!」
「ッおわああああ!?」
ヂヂヂヂヂィッ!!!という恐ろしい音に傑の絶叫。釣られて叫んだ俺は悟った。しかし遅かった。傑は既に窓を開けベランダのサンダルに足を突っ込み踏み出していて、前方からは何やら液体を撒き散らしながら傑に奇襲をしかけているソイツが室内へと入って来ている、様が、別世界のことのように他人事のようにスローモーションのように、俺の眼に移された。
脳が情報を完結したその瞬間。俺は無限で対象二体をベランダへ吹き飛ばしていた。傑が背中を派手にベランダの壁に打ち付けガハッとなっているのが見えるが、それどころではない。無限で自分を窓に引き寄せ瞬間移動を決めた俺はピシャンと窓を閉めガチャッと鍵を回した。
「ちょっと!何するんだい、悟!!」
「セミどっかに追い払えよ!開けようとすんな!窓叩いてんじゃねえ!」
「私は犠牲か!?うわっ何をするやめふじこlp!!」
何だあのセミ強すぎるだろ。傑の、怒りで血管がいつもより激しく浮き出ている腕の怖えパンチをいとも簡単に避け続けているセミは、お前は蜂か?とでも言うようにブンブン傑を襲うことを止めない。傑は悲鳴を上げながら腕を振り回している。普通に絵面的に傑のが怖えわ。傑がベランダから上半身を乗り出した。
「あ、おい、飛び降り自殺はさすがにやめとけよ」
「しないよ!!おい硝子!!っしょーこ!!助けて!!セミ!!悟が私を見捨てた!!」
「あー?」
「硝子!!セミ!!!」
「私はセミじゃねえな」
「あ〜もう早くどっか行ってくれセミ、殺さなきゃいけないだろ!」
「いや殺せよ」
「なるべく殺したくない!あとで死骸を処理するのも嫌なんだよ、硝子何とかしてくれないかウワッ」
「めっちゃ面白いな」
どうやら地上に硝子が居るらしい。二人の会話を耳に入れながら、セミと傑の戦いを眺めている。硝子は変わらず大した大声でもないが、防音性も断熱性も皆無の窓、寮だからフツーに聞こえる。セミは未だにマーキングでもしてんのかぐらい傑にまとわりついている。いつまで傑にまとわりついてんだよ。普通に段々イライラしてきた。傑も早くソイツ殺して俺の方戻って来てよ。俺の傑がさっきからセミに一生懸命すぎるんだけどお前は俺のでしょマジでひどくない腹立ってきたマジでクソ。ねえ俺のこと放置?ひどくない?
「ねえ傑、早くソイツ追い払って。パイオの続きしよ」
「悟のせいだろ」
は?傑がそのセミに好かれてるせいだろ?ふざけんなよ。
あまりにもな傑の言い草に怒りのネジが外れかけるが、下から硝子の煙草の煙が上がって来たのが呪力の動きで分かって様子をうかがうに留まった。セミがチチチチィみたいな情けない泣き声を出して悲し気に戦線を離脱していく。ふん。煙臭くて森でハブられろ。一生戻ってくんな。クソ、あのセミにマーキングしときゃよかった、夜、森に出れば殺せる。無限を纏い今から俺はセミを殺しに行くという心積もりがあれば俺だってたかがセミごときにここまで驚かない。いきなりはクソ。ブラクラはNGだがグロホラーはいけるようなもんだ。驚き要素は多少あれどグロホラーなパイオハザード、けど傑とキャーキャーイチャイチャしながらやってるからいつの間にかヤっててエンディングは見れそうにない。早く見たいが一生見れなくても別にいい。なのに何で傑は未だ俺に背中を向けたまま硝子に礼を言ってるわけ。
「硝子、ありがとう、硝子、女神」
「もっと言ってもっと言って」
「神様、女神、結婚したい」
「はぁ!?傑は俺と結婚すんの!」
ガラッ!
飛び降り自殺はしない。傑は俺とエンダーすんの!
うわウケる一瞬合った硝子の目が死んでる、てかクッサ、煙草。俺は傑に触って二人分無限を張った。ここは海の上はおろか甲板の上ですらないけどエンダァアアアア。
傑をベランダの壁に押し付け全体重をかけ顔を引っ掴んで口を塞ぎ合った。わざとらしい水音を出してチュッチュしていると、ふと遠くの方でヂヂヂ…と聞こえヂヂヂヂヂィうわああああああ!!!
「うわセミ張り付いてる気持ち悪いなあ!!」
「お前セミに好かれるフェロモンでも出してんじゃねーの!?」
「出してるとするなら悟の方だと思うよ?!」
俺たちの合間、微妙なところに突撃してきて無限に張り付いているセミの腹がマジでキモイ。ビビって傑と抱き着き合っていたのに傑にベリッと剥がされかけたけど無限の維持のためにヤダヤダ!って傑にくっつき続ける俺ホント一途すぎて泣きそうマジ子犬だわ。結局剥がされたけど。「もうホントヤダ、早く部屋入ろ」ガラッ「ちょっと待って洗濯物ついでに放り込むだけしておけば」ヂヂヂ!
「うわ入ってくんな死ね!!!」
ピシャン。ガチャ。