うさぎのきもち
「うさ、…うさ」
「うん。何となくね。うさぎって、悟に似てるなと思って」
指で摘まんでるウサギが、俺を見返してくる。…うさリンゴ。ウサギの耳がいい具合に作れてて、爪楊枝で掘ったのか分かんないけど、凹みで、つぶらな瞳が表現されてる。…マジでそんな器用だったの?器用すぎね?いや、知ってたけど。俺のチャーミングなパッチリお目目が余すことなく再現されている。
傑、意外と器用なんだよな。チラッとグラサンの隙間から傑を覗くと、同じように俺を覗いてた傑とバチッと目があった。
「こういうの好きじゃなかった?」
「っえ、いや、好き。めっちゃ好き。ホントに好き」
「そう?でも、あんまり眺めていると酸化して汚くなっちゃうから早く食べなよ」
傑が目の前で、普通に剥いたらしいモロなリンゴを爪楊枝で刺して、シャクシャク、口に詰めている。あんなリンゴはどうでもいい。俺は、俺のウサリンゴは。俺はまた、視点を俺のウサリンゴに移す。
ねえ、これ俺のためだけに作ってくれたの。俺が喜ぶと思って?
俺、別にタコさんウインナーとかウサリンゴとか特段好きってわけじゃねーし、そんなんで食欲がモリモリになるとかそんなんでも無いんだけど。なんならそういう趣向を凝らすことすらしないって方なんだけど。そりゃ見た目は美しいに越したことないけどさぁ、どうせ食うんだし無駄じゃね? 傑はそんな無駄な労力使って、時間使って、このウサリンゴ作ってくれたわけ? 俺のために。
「……食べないの?」
このウサリンゴを食って傑の労力(愛)を無駄にする自分が想像できない。しかもモデルは俺と来てる。嘘かホントか分かんないけど何でもいいとにかく俺はこのウサリンゴを、
「プリザーブドウサリンゴにする」
「は?何変なこと言ってるんだい。そんなに好きならまた作ってあげるから早く食べなよ」
「ヤダ飾る。ほら早く二匹目作ってよ」
「今度ね。もう全部剥いちゃったから。食べないなら返してくれないか、私が食べるよ」
「なんで返さなきゃいけないわけ。傑が愛情込めて俺に作ってくれたウサリンゴじゃん。お前マジで。タコさんウインナーもウサリンゴも無縁で〜すって顔してさぁそういうの作っちゃうし、俺のだいしゅきホールドに嬉しそうにチンコデカくするしホントなんなの?マジで俺のこと好きすぎじゃね?」
傑がこめかみに怒りマークをびっしり付けて俺と向き直った。照れ隠しか?
「いいから返せ」
「なんでなんで!」
ダダりながら抵抗してみるけど、呪力抜きでは傑に勝てない。案の定、直ぐにピンチになって無限を張る羽目になった。チクショー。しかも俺に手を伸ばした傑が無限に阻まれて悲しそうな表情になるから、一瞬、その表情に怯んで無限を解かざるを得なくなった。即、俺の手からはウサリンゴが拉致されていく。俺のウサリンゴ返して!きゃ〜〜〜!!と怒りの大口を開けるとウサリンゴが、押し込まれた。――アアッ!ウサリンゴが!!
「だって、どこに飾るか知らないけどさ、…ヤッてるときに目があったらなんか恥ずかしいだろ」
死ッ――。グシャ。
どこに恥ずかスイッチあんだよ!!!っあ゛〜〜!!!ッシャク。シャクシャクシャクシャク。
俺は傑が可愛好きすぎてどうしたらいいか分からない暴れまわりたくなるこの感情をウサギになすり付けるように口を閉じ歯を立て傑の愛情を噛み締めていく。シャクシャクシャクシャクシャク。ゴックン。甘い。もーほんと好きじゃん。俺ごと食って。