04.


 休日の目抜き通りは、大勢の人で賑わっていた。前日までの雨が嘘のように空は青々と澄み渡り、輝く太陽の光が燦々と降り注ぐ。見事な秋晴れは、少々肌寒さを感じながらも絶好の外出日和だ。
 立ち並ぶ幾つもの店の先には彩り強いPOP広告が掲げられ、従業員が作り物の笑みを顔に貼り付け声高らかに客を誘う。十人十色の格好で道行く人々は、皆楽しそうに笑顔を浮かべていて、その中に混じって同じように上機嫌で歩く幼馴染の後を、快斗は付いて回っていた。
 最近の快斗の不調を気に掛けてくれているらしい青子に、外へと連れ出されたのは、今朝のことだった。休日だからとだらけていたところにやって来て、買い物に付き合ってくれと言う。荷物持ちの役割を押し付けて、その実気分転換も兼ねているのだと悟って力が抜けた。
 彼女の優しさは、今の快斗には痛みを伴う。出来れば気付かぬ振りで放っておいてほしい、それが本音だ。けれどこの幼馴染には、そんな器用な真似が出来ようはずもないことを、快斗は知っていた。不承不承ではあるがその気遣いに応えてやるため、胸を刺す痛みに蓋をして、彼女の後を追って店内へ向かった。
 
「ね、快斗。どっちの色がいいと思う?」

 そう言って、可愛らしいデザインのワンピースを二枚並べて見せられるが、快斗は答えに窮した。恐らくは色違いであるのだろうが、快斗にはどちらも同じ黒にしか見えない。
 
「…どっちでもいいだろ、大して変わんねーよ」

 苦い思いで、しかし表面上は如何にも面倒そうに装いながら、適当に答える。途端にむっとして口を尖らす青子に断りを入れて、快斗は逃げるように店の外へ出た。
 太陽は天辺まで昇り切り、気温は今日一番で暖かい。けれど、快斗の心は冷え切っていた。
 世界はたくさんの色で溢れていた筈だ。だが快斗は失くしてしまった。探しても見つからないのなら、諦めてしまった方が楽だった。それが本心なのか、それとも己にそう言い聞かせているだけなのか、自分でも既に解らないまま、快斗は深く息を吐いた。
 その時だ。視界の端に、青が過った。刹那のそれに引き寄せられるように、モノクロ世界に視線を投じる。行き交う人々の間隙にそれを見つけて、快斗は驚愕に目を瞠った。
 
「…めい、たんてい…?」

 色、だ。快斗が忘れて久しい、鮮やかな色彩を纏って、彼は居た。
 身に付けた服の青も、艶やかな黒髪も、温かな肌色も、前を見据える凛とした瞳の蒼も、総てが鮮やかに快斗の目に映る。
 瞬きすら忘れて見詰める先で、やがて彼は黒白とした街並みに紛れてしまったが、それでも無意識に色を追っていた快斗は、買い物を終えた幼馴染に声を掛けられるまで、ただ呆然と立ち尽くしていた。


(12/4/11)

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