01.


 世界はモノクロだ。頭上広がる青い空も、新芽萌ゆる緑の木々も、或いは街を焼く黄昏の夕陽も、人の肌さえも、総てが色を失い目に映るのは白黒以外無い。
 それに気付いたのは、いつだったか。父親が殺された時、巷を騒がす怪盗の正体を知った時、その名を継ぐと決めた時、初めて犯罪に手を染めた時…。
 一度きりの人生でこんなにあっていいものかと思うほど数々の分岐点に立たされたが、どれもが重要で確たる切欠に成り得るはずなのに、どれもがいまいちしっくりこない。
 とにかく、気付いた時には既に世界は色彩を失っていた。
 最初は当然のことながら酷く驚いた。視界に入る総てのものが、白と黒。一体どうして、と原因を考えたところで、しかしながら特にこれといって思い当たる節が無かった。何かの病気だろうかと調べてもみたけれど、そんな病気があるなど聞いたことがないし、そもそも人間の目で視認出来る色が白黒のみになること自体がまず有り得ない。網膜上に存在する二つの細胞のうち、錐体細胞に何らかの異常があれば類似した症状は考えられなくもないが、それとて可能性は0に近いほど難しい話だ。
 外的要因ではなく、もしかしたら精神的なものであるかも知れない。絶望や諦念、虚無感を味わい、種種な重責を背負うことになったそのプレッシャーに苛まれることは、恐らく人よりも多かった。
 或いは、それら総てが積もり積もった結果なのかも知れない。
 原因が解らなければ、治療も儘ならない。何の策も講ずることが出来ないまま、何時の間にか時は経ち、次第に慣れて何も感じなくなっていた。それは色彩だけに留まず、呼応するように感覚が萎縮していった。
 今ではもうすっかり諦め、何の感情も湧かないまま日々を過ごし使命を全うしようと動く、まるで作られた機械のようだ。
 少なからず自覚があるからこそ、余計に味気無いものへと変化していく世界に、零れたのは自嘲だった。


(12/3/30)

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