リビングに入ってきた新一の姿を見て、快斗は呆れた顔をした。
「ちゃんと乾かしてこいって、いつも言ってるだろ」
「んー…」
快斗の小言に、返るのは生返事ばかりだ。
風呂上がりの新一はスウェットに薄手のシャツを羽織り、肩にはタオルを掛けていたが、髪はしっとりと濡れて先からポタポタと雫を垂らしていた。頬に額に首筋に、ぺとぺとと貼り付いていて鬱陶しそうなのに、その瞼は半分程閉じられていて払う素振りも見せない。そんな気力も無いんだろう。
事件だ何だと疲弊した様子の新一に、久々だからと無理をさせた自覚はある。けれど、擦れ違いの生活が続いていたところに漸く顔を合わせたら、どうにも止まらなかったのだ。
新一はふらふらと歩いてソファに座り込んだ。今にも眠ってしまいそうで、ぼんやりとした表情が可愛らしい。
しかし、そのままでは湯冷めして風邪を引いてしまう。快斗は慌ててリビングを出た。
ドライヤーを手にリビングへ戻ると、新一はついにうつらうつらと船を漕いでいた。ソファの背凭れを挟んで後ろに立ち、まずは肩に掛かったタオルで水気を拭う。一瞬ぴくりと反応した新一は、けれどすぐに大人しくなった。その濡れた髪を、快斗が優しく丁寧に乾かしていく。
新一はされるがままだ。余程眠いんだろう。落ちてくる重い瞼を懸命に持ち上げようとして失敗し、かくんと俯いた。
その拍子に露になったうなじに、快斗の視線が釘付けられる。風呂上がりで血行の良くなった肌がほんのり桜色に染まり、毛先から垂れた雫が首筋を滑り落ちていく。それを目で追って、すべらかなうなじに唇を寄せる。
途端にビクリと目の前の肩が揺れた。
「なにすんだ」
「あー…わりぃ、つい」
驚きに冴えたのか、鋭い眼光が肩越しに睨め付けてくる。
快斗は苦笑と共にそう答えた。表情こそ何の違和感を与えることなく繕っているが、その実内心では小さく動揺していた。
完全に無意識だった。気付いた時には既に体が動いていたのだ。
新一のこととなると、どうにも抑止することも叶わない。けれどもこれ以上無理をさせるわけにもいかないので、体の奥に灯った幽かな熱には気付かないフリをして、誤魔化すようにドライヤーに手を伸ばした。
(12/6/12)