おいで。


 両手を広げて殊更優しく言ってやったら、ものすごく、そりゃもう心底嫌そうな顔をされた。これが照れ隠しであるならまだしも、本気の嫌悪であるから、へこむ。
 けれどもめげずにもう一度呼んだら、今度はふいとそっぽを向かれた。情けなくも眉尻が下がる。それでも快斗は食い下がった。

「いーから来いよ、ぎゅってしてやっから」
「いらねー」

 返るのは素気無い言葉だ。快斗は、むう、と唇を尖らす。全くもって、つれない。
 彼が恋愛面に対して奥手であることは、身を以て知っている。そうでなければ、快斗がこんなにも我慢を強いられる生活をする必要はない。だがそれにも限界があると言うもので、偶には憂さを晴らさなければいつか暴発してしまいそうだった。

「しーんいち」

 ほら、と腕を更に伸ばせば、

「いらねーって言ってんだろうが」

 けんもほろろに一蹴される。取り付く島もない。
 顔も良い頭も良い運動も出来る、家事だって完璧にこなすし、おまけに夜だって満足させられる。これ程までにイイ男はいないだろうに、一体何が不満なんだ。
 疑問をそのまま口にしてみたら、「そういうところだ」と返された。こんなにも尽くしてやっているのに、報われない。
 だけど決して嫌われているわけではないことを知っていた。現に、快斗がしょんぼりと肩を落としてみせれば、途端こちらに意識が向けられる。
 いい加減、広げたままの腕が疲れてきた。
 痺れを切らして、多少強引ながら、彼の腕を掴んでその細腰を抱き寄せる。

「うわっ、おい、危ねえだろ!」
「知らねーよ」

 拗ねたように一言だけ答えて、思う存分ぎゅうと抱き締めてやれば、快斗の腕の中にすっかり収まった新一の小さなぼやきが届いた。

「お前がこうしたかっただけじゃねえか」

 文句ばかり言いながら、けれど抵抗らしい抵抗も見せない彼がいとおしい。
 快斗は、年の割に華奢な身体をしっかりと抱き締めながら、へらりと笑み崩れた。




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快新をイチャイチャさせたかったんだ。
でも思った程イチャイチャにならなかった(・ェ・`)
(12/04/17)


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