「好きだ」
いきなり後ろから抱き付かれたと思ったら、何の前触れも無くこう言われた。
別に、初めてではない。
もう何度も言われたし、そのしつこさに呆れながらも結構嬉しかったりする。
だから時々、本当に時々だが、俺からそれを言う時だってあった。
けれど、何を不安になっているのか。
一体、何に焦っているのか。
「好きだ」
抱き締める腕に、力が込められる。
決して放すまいとするかのように。
腕の中に閉じ込めようとするかのように。
「どうしようもないくらい、テメーに惚れてる」
そんなくっせぇ台詞を何の躊躇いもなく告げてくる。
一体何を思っているのか。
不安を感じる必要なんて、これっぽっちも無いだろう。
「好きだ」
更に腕に力が込められた。
力強くて頼もしいけれど、苦しいだろーがコノヤロー。
文句を言ってやろうと、肩口に押し付けられた土方の顔を見れば、その表情は俺以上に苦しそうに歪められていた。
…馬鹿な奴だな。
一体、何を不安になっているのか。
不安を感じる必要なんて、これっぽっちも無いだろう。
「あいしてる」
ぎゅっ、と抱き締められて情けないくらい泣きそうな声。
それは、まるで縋るようで。
俺はゆっくりと土方に身体を預けて、
「恥ずかしい奴…」
小さく呟いた。
きっと聞こえてはいないだろうけれど、それより今は恐らく真っ赤であろうこの熱い顔を隠すのが先だ。
…なぁ、お前が不安を感じる必要なんて無いんだよ。
俺はちゃんと、お前の事を────。
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Side:G
(08/05/01)