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まだ気付かない気持ち


私のお隣さんは、とても大きい人だ。

「えーひゃー、やーもうちょっと寄れー」
「え!あ、ごめんね!」
「しに疲れた…腹も減った……」
「あ、あの、飴玉、あるけど食べる?」
「いいばー!?やーがくれる飴玉いつもまーさんだからよー!」
「えへへ……田仁志くんは何でも美味しく食べるから、私も嬉しいな」
「……わんは好き嫌いないからなー」
「あ、そうなんだ?羨ましいなぁ」

教室の窓際の一番後ろ。
窓と田仁志くんに挟まれて座る私は那覇からここ、北のほうに引っ越してきた。那覇はあまり方言とか出ないし、あるとしてもみんな語尾が訛るくらいだから、私自身、語尾が少し訛る程度の方言しか知らない。そんな中北の地域に引っ越してきた私は当初、とても困ったことになったものだ。みんな方言がキツい。わからない訳ではないが、きちんと全訳出来る訳でもないので、友達も出来ずに一人で過ごしていた。そんな中、三年に上がって席替えして。田仁志くんの隣になったのだけど、その時は本気で不運なんじゃないかと嘆いたものだ。だって田仁志くんは見た目が怖い。窓と田仁志くんに挟まれて、縮こまりながら次の席替えまで過ごそうと、しくしくと内心で涙したものだ。今ではそんな自分を一喝してやりたい。田仁志くんは見た目に反して優しい。

「なぁ、」
「は、はいぃ!」
「わんがでかいからってよ、やーがそんな縮こまらんでもいいさ。それともあれか、窓が好きだばー?」

そう言って首を傾げた田仁志くんに思わず笑ってしまったのは今でも覚えている。窓が好きだばー?なんて聞いてくるなんて、なんだか可愛くて拍子抜けしたものだ。それから、色々と飴やらお菓子やら携帯しては田仁志くんにお裾分けするようになった。初めておどおどしていた私に気さくに話しかけてくれた田仁志くんへの、細やかなお返しだ。

そんな事を思い返していたら、田仁志くんは此方をじーと見ていた。口は飴玉を舐めているのか、もごもごと動いている。

「どうしたの?」
「……好き嫌いあるって言ったやっし?ぬーが嫌いだば?」
「うーん…トマト……」
「あい!?トマト嫌いだばぁ!?」
「だだだだって!あのどろどろしたの野菜としておかしいよ!」
「あんっっなまーさんなもん他にあるばー!?」
「いやいやいや!田仁志くんはなんでもまーさんって食べるでしょ!?」
「そーだけどよ……やっぱりあるやっし?あれ」
「あれ?」
「あれよ、あれ」
「いやいやいやわかんないよ」
「食べる事の美しーさー的な」
「意味がわからないよ」

話がころころ転がりすぎている。私は苦笑をもらしてしまった。田仁志くんはとてもマイペースだから、話が二転三転するのはいつものことだ。

話は戻るが、聞けば田仁志くんは焼き肉でさえトングでまとめて食べるらしいからとんでもない。田仁志くんにだけは美食に関してはあまりあれこれ言われたくないものである。田仁志くんは納得いかないのか、ぐぬぬ、と唸り声を上げている。

「やーとよ、」
「ん?」

あと少しで先生来るなぁ、と、田仁志くんを横目にぼんやりしていたら、急に田仁志くんは机に突っ伏した。その際に大きなぷにぷにお腹が机の淵に引っかかってガタガタ音をたてる。そんな事も気にせずに、田仁志くんは突っ伏した腕の中でもごもごと喋っている。

「私と、何?」
「やーと飯行きたいばーよ、わんは」
「へ」
「ぬーがやーそんな驚いてよ」
「いや、それって、デ、」
「あんまゆんたく出来んやっし?えーしろーにも睨まれるしよー」
「え、え、デ、デデ、私と、田仁志くんが、デ、」
「やーなら、わんがどんだけ食ってもぐちぐち言わんやっし?」
「へ」

にかっと満面の笑みを浮かべながら話す田仁志くんに私は思いっきり拍子抜けしてしまった。デートのお誘いかと思った。そうだよ、そうだよね、まさか田仁志くんが私をデートに誘う訳ないよね。でも私はなんでデートだなんて思ったんだろう。なんだか少し気恥ずかしい。

顔が真っ赤になっているであろう私に気付かないまま、田仁志くんはカラカラ笑った。

「まあ、やーがかめんのはわんがかみーさ!」
「田仁志くんが食べてくれるなら安心だなぁ」

私が笑いながらそう言えば、田仁志くんも満足そうに笑った。今から田仁志くんとご飯を食べに行くのが楽しみで、この緩みきった頬は直ってくれそうにもない。



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「自由」あおちゃんよりいただきました。私は声を大にして言いたい。最高じゃねーーーーーーーーの!!!このね、付き合ってないのに付き合ってるみたいなことするってのにぎくしゃくする感じね、殺しにきてるよね。田仁志くん最高フォーエバー。あおちゃんマジでありがとう。




まだ気付かない気持ち

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