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理由はいろいろ



ジローさんは毎週水曜日に部活がお休みになるらしい。跡部さん曰く、前はそれほどでもなかったが私と知り合った辺りからよく神奈川へ遠征しに行くようになった、とのこと。もちろん丸井先輩目当てで。そして帰りは跡部さんがお迎えに来る。ジローさん、奔放すぎる。


「でねー、この前ひよCーと試合したんだけどさ」
「誰ですかひよCーって」
「…下克上?」
「戦国武将の方か何かですか」
「んー、そんな感じ」


えらくアバウトだ。そして真田先輩以外にも武将染みた中学生がいることに驚きだ。戦国ブームの余波がこんなところにまで、と遠い目をしながら足を止めたのは立海大附属中学校の東門。ジローさんがハンとジンにも会いたいと言い出したのがきっかけで、ついでだからとここまでお散歩に来たのである。

しかし今回は以前と違い、前もって連絡をしていないので愛犬たちを連れて入っていいのか分からない。そもそも他校生がほいほい入っていいものなのだろうか。悩む私を無視して、ハンのリードを持ったジローさんはほいほい入って行ってしまったではないか。…私はもう何も言うまい。


「やっべー!丸井くん!丸井くんだ!マジマジかっちょEー!」
「ちょっとジローさん!あんまり騒がないでくださいよ…!」
「だって丸井くんだよ!?」
「私にその理屈が通るとでも!?」


少なくとも私が丸井先輩にきゃーきゃー言うことはまずない。そう言い切るとジローさんは少しだけ考える素振りを見せ、「じゃあハンとジンだったら?」と首を傾げた。ものすごく分かりやすい例えだった。それはたしかに私でもきゃーきゃー言ってしまう。ならば騒いでいいかと言えばそれはまた別問題。ハンとジンにおすわりをさせ、今にもコートへ突っ込んでいきそうなジローさんの首根っこをなんとか掴んで引き止める。これ以上騒いだら厄介な野郎が出てきかねないというのに、この人は…。

いっそ今この手を離したら顔面から転ばないだろうか。そんな考えが頭をよぎるとほぼ同時、厄介な野郎はおいでなすったのである。


「何しとるんじゃ、おまんらは」


それは呆れ顔で後ろ頭を掻く仁王先輩。とっさに元凶であるジローさんを生贄に捧げようとその背中に隠れると、真田が睨んどるから静かにしろとのお達しが。どうやらすでに常連と化しているジローさんのことは大目に見てくれるらしい。じゃあ問題は私とハンとジンか。やっぱりまずいですかと仁王先輩に聞けば、意外にも奴は「真田には俺が言うとくきに」とのたまった。ただし、意地の悪い笑みつき。嫌な貸しを作ってしまった気がしないでもない。


「ハンもジンもよう来たのう」
「におー、真田がすっげー睨んでるけど大丈夫?」
「…プリッ」
「私たち大人しくしてるんで、もう戻ったほうがいいんじゃないですか?」
「はあ…。真田の頭の堅さは考えもんじゃ」


名残惜しそうにハンとジンを撫で、だるそうに背中を丸めてコートへと戻っていく仁王先輩。ジローさんも静かになり、大人しく丸井先輩観察でもしているのかと思いきや。なぜかその視線は私の方へ向けられていた。

垂れた目をぱちぱちと瞬かせ、凝視と言っていいほどの勢いでこちらを見ている。穴が空くのでやめていただきたいという言葉をぐっと飲み込み、まずはなんですかと質問を。するとジローさんは「ハスキーちゃんとにおーって仲Eーの?」と首を傾げた。違うと即答しておいた。

ようやくコートへ戻った視線にほっとしたのも束の間。てっきりまた丸井くんコールが始まるとばかり思っていたのに、なぜか彼はいたずらっぽく笑ってこう言った。


「におーの調子、いつもより悪いんだー。たぶんこっちが気になるからだCー」
「それってウザイから帰れって意味では…」
「ハスキーちゃん分かってなEー!」
「え、ええ…」


怒っているような楽しんでいるような、そんな顔で背中を叩かれた私はひたすら疑問符を浮かべることしかできなかった。ジローさんの行動はいつも謎が多すぎる。




理由はいろいろ



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