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コンティニューを希望



赤いもじゃもじゃがひょこひょこと日陰に移動するのが見えた。あの先輩は今日も部活をサボるつもりらしい。でもどうせ、あと十分もすれば他の先輩が赤もじゃ先輩、もとい毛利先輩を叩き起こしに来るのだ。束の間の幸せでも噛み締めているがいいさ。

図書委員の当番で返却された本を片づける傍ら、今日も今日とてサボりに勤しむ先輩の頭を見下ろす。ああほら、言ってるそばから。走ってやって来た他の先輩が毛利先輩の耳を引っ張り上げる。ここからだとどういう会話がされているのか分からないが、少なくとも今見える光景は面白いので思わず吹き出してしまった。いかんいかん、図書室ではお静かに、だ。

窓に背を向け、本棚と向き合う。一冊、また一冊と戻し、それを終えた後は時間までカウンターで本を読んで暇を潰した。そして帰り際、なんとなく通りがかったテニスコートには楽しそうに練習に励む毛利先輩の姿があるではないか。


(…変な人)


そんなに楽しそうにするのなら最初から練習に参加すればいいのに。汗にまみれて笑う毛利先輩を見て、そんなことを思った。


次の日の昼休み、私はまたカウンターに座って本を読んでいた。これで私の図書委員当番は終わり。テスト前というわけでもないから人はまばらで、読んでいる本もあまり面白くなくて、やることも終わってしまっていて、つまるところ退屈で仕方がなかった。

先生もいないことだしいいか、と貸出管理用のパソコンからゲームを立ち上げ、静かな図書室にクリック音を響かせる。数手先を読みながらトランプを動かし、全ての札を順番通りに並べる。そしてクリア画面が表示されたところで、なぜか小さな拍手が後ろから聞こえた。


「おー、やりおるんね。俺はこーいうん苦手やわ」
「えっ、」
「一応声はかけたんよ?でも反応のうて」
「す、すみません…!本の貸出で…あ」
「ん?」


遊んでいたところを見つかってしまい、慌てて謝ると同時にわずかにいた他の生徒の目がこちらへと向いた。途中で不自然に途切れた言葉をごまかすように失礼しました、と頭を下げ、問題の人物へ向き直す。


「本の貸出、ですよね?」
「んー、まあそういうことにしとこか」
「はい?」
「な、な、続きしよらんの?俺もっかい見たい」
「し、しないですよ…。先生に見つかったらまずいですし…」
「ケチなやっちゃ」


パソコンの画面を覗きこむように屈んでいた背を伸ばし、口を尖らせる人物。いつもいつも部活をサボっているあの毛利先輩だ。私は上から見ていることが多いから、こうして目の前で見上げてみるとその身長の高さに驚かされる。二メートル近くはあろうかという巨人。そのくせ妙な訛りのある口調が不思議と気安くさせていて、気まずいという感じはしなかった。

しかし、いっこうにその場を動こうとしない毛利先輩にはさすがに焦りを覚える。ゲームをして遊んでいたところを見つかったわけだし、先輩だし、先生に密告されてしまうのだろうか。怒られるのは嫌だがそれよりもゲームを消されて次から暇潰しの術がなくなる方が…。


「…あの、先輩?そろそろチャイム鳴りますけど…」
「んー。知っとる」
「教室に戻らなくていいんですか?」
「えーよえーよ。お休みにしんせーね」
「全然良くないような気がします」
「固いこと言いなさん…あ、詰んだ」
「目先のエースに囚われるからです」
「ぬあー、やっぱ難しいんか」


隣の椅子に座ってゲームをやり始めてしまった毛利先輩。しかしすぐにゲームオーバーの文字が出てしまった。私はそのままゲームを終了させてパソコンの電源を切り、未だ動こうとしない毛利先輩に背中を向ける。


「もう行きよるん?」
「一年でサボりはまずいので」
「じゃあまた放課後、いつもんとこでサボらんとなあ」
「は?」
「見よるんが自分だけやと思た?」


こっちからも見えとった。そう言って笑った毛利先輩に、私の頭は一瞬で思考力を奪われた。バレてた。見てたのが。それで、たぶん、毛利先輩も、見てた。

一気に熱を帯びた顔を隠すように腕で覆う。私はすでに他の生徒が退室していたのをいいことに、大声でこう言い返した。


「私の当番はこの昼休みで終わりですから!!」


図書室を飛び出した後、こらえきれなかったらしい笑い声が背中を叩いたが、戻って反論する勇気はさすがに出なかった。




コンティニューを希望



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