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からかうと楽しい



その日の仁王先輩は職員会議の関係で部活が休みになったと言い、早い時間に我が家へとやって来た。あらかじめメールをもらっていたのでそのこと自体には驚かなかったが、陽も傾かない内から仁王先輩と散歩へ行くのはなんだか変な感じがする。

とりあえずいつも通り公園へ向かうと、近所のちびっこたちも集まってサッカーやよく分からない遊びやらをしていた。しかし、私に気付いても隣の仁王先輩を警戒しているのか近付いて来る気配がない。仕方なく、私は仁王先輩に待てをかけてちびっこたちの元へと向かったのである。


「よーっす。みんな何してるの?」
「ケイドロだよー。…それより名前お姉ちゃん、あの人だれ…?」
「あれはね、まっしろしろすけ。害はないから目玉もほじっちゃダメね」
「だから髪の毛白いんだ」
「そうそう、まっしろしろすけだか…いっだ!!」
「おまんは何教えとるんじゃ」


がつん、と一発頭に落とされた。恐らくグーで。つまりゲンコツ。頭を抱えて後ろを振り返れば、案の定意地悪く口角を持ち上げた仁王先輩が立っていた。私の後ろに隠れたちびっこが「害あるじゃん!有害じゃん!」と異論を唱えているが少々お口チャックしていただきたい。それ以上言ったら私の頭が割られかねない。

一方、仁王先輩は何か思案するような顔を見せたのちカムヒア、とコマンドを出してハンとジンを呼び寄せた。そこまではいい。相変わらず意図は読めないが、それは今に始まったことではないので大して気にならない。しかし、仁王先輩はハンを抱き上げるなりそのまま走り出しやがったのである。


「…って、ちょっと何やってるんですか!うちの子返せこの白髪野郎!!」
「ちぃと借りるだけじゃ」
「レンタルはやってません!!」
「じゃあ完全移籍」
「例え期限付き移籍だろうとダメったらダメ!!」


相変わらず意図は読めないが以下略。片手で赤ちゃんを抱くようにして抱えられたハンは、後ろから追いかけてくる私を見て楽しそうに尻尾を振るばかり。仁王先輩の体に隠れきれていないのだからよっぽどだ。ちびっこたちもきょとん顔だ。

足にはそれなりに自信のある私でも、さすがに仁王先輩ほど走れるわけではない。あの忌々しい白髪野郎に負けないもの…といったらハンとジンとの絆…プラスディスクドッグしかないだろう。


「ハン!キャッチ!」
「そうはさせんぜよ」
「ぎゃあああ!!仁王先輩の馬鹿!!白髪!!禿げろ!!」
「…もうちょいマシな罵倒は出てこんのか」


公園内に私の悲痛な叫びがこだまする。ハンが飛び出して逃げるようにと狙って投げたフリスビーは、体を反転させた仁王先輩にキャッチされてしまったのである。貴様にコマンドを出した覚えはないと声を大にして言いたい。

ハンがキャッチに行く体勢を作ろうとする絶妙なタイミング。そこを狙って仁王先輩が後ろを振り返るものだから、ハンはフリスビーを見失って飛び出せなくなってしまう。そんなこんなで五枚すべて仁王先輩にキャッチされてしまった。ちびっこたちはいつの間にやら「あの兄ちゃんすげーな!」と目をキラキラさせているし、私は私でハンを取り返せなくてメラメラしているし、イライラしているし…。


「もうこの際仁王先輩の頭に直接ぶち当てるしか…」
「おっかないのう。ほれ、ジンもこっち来んしゃい」
「バウッ!」
「え!?ちょっとま…仁王先輩の馬鹿あああ!!」


結局、私が半べそになるまでハンとジンを返してくれない仁王先輩だった。もうあの人嫌い。




からかうと楽しい

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