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「お前らってさ、あん中で付き合ってたりすんの?」


部活後の部室内。汗だくになったユニフォームを脱ぎ捨てて団扇をあおぎながら、なんとなく気になっていたことを聞いてみた。

てきぱきと着替える奴もいれば俺みたいにのんびりしている奴もいる。そして全員の視線が一点に集中するも、当の本人は気づかず、鼻歌なんか歌いながら着替えを続行していた。せめてこっち向くくらいのことはしろい。


「おい赤也。お前だよ」
「つっめて!?ちょ、丸井先輩!いきなり制汗剤ぶっかけないでくださいよ!」
「いいから質問に答えろって」
「なんのっすか?」
「だーかーらー」


あの中、と言ったらもちろん赤也を含めたあの幼なじみ六人のことだ。男三人女三人。付き合うまでいかなくとも片想いくらいあってもおかしくない。それなのに何かと六人で集まって遊んでいる様子の赤也たちが不思議でならなかった。まあ、藍田はもう幸村くんと付き合ってんだけど。


「その話、俺も詳しく聞きたいな」
「だよなー!幸村くんもそう思うよな!」
「い、色恋に現を抜かすなど…!」
「藍田の例がある。一概にそうは言えないはずだぞ」
「じゃあもしあの中で藍田のことが好きな奴がいたら…いや、すまん!なんでもない!今のは忘れてくれ!」
「ゆ、幸村くんと藍田さんはとてもお似合いだと思いますよ」
「で、結局のところ、どうなんじゃ」
「なんなんすか先輩ら!詰め寄ってこないでくださいよ!」


んなこと言ったって、気になるもんは気になるだろい。

まあとりあえず座れと言って赤也をパイプ椅子に座らせ、俺たちも椅子に座ったり机に座ったりして赤也を囲んだ。赤也(と真田)が嫌がるのもお構いなし。みんな何を聞こうかと頭を捻っているようだ。


「じゃあまず俺から。沙耶って今までに誰かと付き合ってた?」
「幸村くん、微妙に趣旨からずれてんぜ」
「俺はいいの」
「…そうですか」


幸村くんは優雅に足を組み、威圧するような笑顔で首を傾げた。たしかに気になるのも分かる。そりゃ彼女なんだし。つーかこれ、もし藍田に元彼とかいたりしたらどうなんの?幸村くんのことだから…何もしないとは思うけど。


「沙耶は彼氏とかいたことないっす。つーか俺ら全員そういうのいなかったっす」
「全員ってことは…古怒田も?」
「深雪はよく告られてたけど全部振ってました」
「マジかよい…」
「その振られた男の中にお前たちはいるのか?」
「柳先輩までそんなこと言う!」


柳だけは自分の味方でいてくれると思っていたようだが甘いぜ赤也。こいつ最初っからノート出して聞く気満々だったからな。俺と同じくらい乗り気だったと言ってもいい。

ノートを片手に開いたまま、柳は赤也との距離を詰め、早く答えろと言わんばかりにほんの少しだけ口の端を持ち上げる。幸村くんといい悪ふざけが好きだよな。俺もだけど。

対する赤也は怒ったように「いない」と叫んで帰り支度を始めてしまった。まあ待て赤也、とその肩に腕を乗せる。反対の肩には柳が手を置いた。そしてあっけなく椅子へと逆戻り。


「もしもあの三人の中で付き合うとしたらさ、誰がいい?」
「はあ!?」
「もしもの話だ。赤也が答えにくいのなら真田、お前から答えてやれ」
「な!?れ、蓮二!お前は自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
「沙耶も含めた三人だからね。正直に答えるように」


逃げるに逃げられずにいた真田を幸村くんが容赦なく捕まえた。しかもわざわざ藍田の名前を出しての命令。おかげで真田の顔は赤くなって青くなってと大忙しだ。どうせどう答えようが不正解なんだから、さっさと答えた方が身のためだと思うぜ、俺は。

しばらく迷ったあと、真田は逃げられないことを悟ったのか、意を決したように口を開いた。


「俺は…!嫁にするならば、藍田のように芯のある者がいいと、」
「誰が結婚相手を選べなんて言ったんだい」
「す、すまん…」
「はい次、柳生。沙耶以外の二人と付き合うならどっちがいい?」
「え!?あ、私は、その…こ、古怒田さんです!」
「そうかそうか、ヒロシは古怒田派か」
「え!?いえ、そういうわけでは…!」
「はい次。みんな正直に答えるんだよ」


部活中、次の行動を急かすときのように幸村くんが手を叩く。これをやられるとどうしても反射的に急いでしまうし、幸村くんの指示に従ってしまう。

もちろん、それは俺以外の連中も例外ではない。


「柳は?」
「古怒田だな」

「次、ジャッカル」
「あー…俺も古怒田。名字とはあまり話したこともないから」

「じゃあ赤也」
「全員ないっす。これだけは幸村部長でも譲れねえ」

「ブン太はどっち?」
「俺は名字かも。チビどもの面倒見てもらったし話しやすい」


ホワイトボードにみんなの名前を書き、その横に古怒田と名字の名前を並べる。幸村くんと藍田の名前をハートで囲んだら「それは恥ずかしい」と幸村くんにハートだけ消されてしまった。ついでに真田の横の“藍田”は“独身”に書き換えられた。…ドンマイ真田。

ここで、隣が空白のままになっている名前があることに気づく。幸村くんも同じことに気づいたのか、部室内を見渡してため息をついている。


「仁王はいつの間にか逃げたみたいだね」
「しょうがねえな。じゃあ柳!お得意のデータで頼むぜ」
「そうだな、仁王が付き合ってもいいと思っているのは、」


ペンをくるりと回し、仁王の隣に名前を書き込む。名字じゃなくて下の名前を書いたのは俺のちょっとした予言だ。

ま!あいつらは絶対に否定するだろうけど!




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