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予知夢? 2



「ちょっと仁王先輩!メールのあれってどういうことっすか!」


二限目の休み時間、体操服のままの赤也が3Bの教室へと飛び込んできた。丸井がまた何かやったのかとでも言いたげな顔をしとるが俺は別になんもしとらん。ただ赤也に“あれ、言ってもええんかのう?”っちゅーメールを送っただけじゃ。深い意味はない。

きゃんきゃん吠える赤也の頭を数回叩いて宥め、未だに文句ありげにしている顔に今朝のメールを突きつけた。ちなみに飛川からの返事はまだ来とらん。


「ん?佳澄のメールっすか?」
「そうじゃ。意味がよう分からんきに」
「ああ、たぶんまたなんか変な夢でも見たんじゃないっすか?いちおー気をつけといた方がいいっすよ」
「夢?」
「夢っす。っと、俺着替えなきゃなんないんで、失礼しまーす」


来たときと同じく、騒々しく教室を出て行った赤也。肝心なことはなんも言わんし使えん奴じゃ。


「なあ、飛川のメールって何?」
「右目に気ぃつけろっちゅーメールが今朝来たんじゃ」
「…あいつってそういうこと言うタイプだっけ?」
「違うから気になっとる」


そう、丸井や参謀の言う通りあいつはそういうことを言うタイプではない。それに飛川と付き合いの長い赤也はその忠告を聞いておいた方がいいと言う。肝心の飛川からの返信は来んし考えるんが面倒になってきた。

次の授業の体育はサボろうかと思ったが、丸井に引きずられて渋々体操服に着替えた。今日は校庭で野球をやるらしく、張り切った野球部の連中が既にバッティング練習を始めている。練習と言ってもふざけながらやっている程度で休み時間の延長みたいなもんじゃ。ようやる。

適当な場所にしゃがんで欠伸をこぼす。隣の丸井がやる気ねえなと笑ったが本当にないもんは仕方なか。遠くによく餌をやっている猫が見えて、こっちに来んかとぼうっとしとった時、金属バットの鋭い音が響いた。


「やべ…!!」
「仁王危ねえ!!」


名前を呼ばれた。危ないと叫ばれた。何が起こったのかも分からないまま反射的に動いた体は、右目を庇うように腕を伸ばしていた。

痛みで痺れる手の平には、たしかに野球ボールが握られている。


「うおお…!仁王ナイスキャッチ…!ファインプレーもんだぜ…」
「マジごめん!手大丈夫か!?どっか怪我してねえ!?」
「こんのノーコン!どこすっ飛ばしてんだよ!ああもうホント、仁王じゃなかったら顔面イッてたぞ…」


どいつもこいつも騒いどる。ほどなくして、授業を始めるためにやって来た体育教師が事情を聞くために野球部の連中を連れて行き、俺は念のため保健室へ行くことになった。付き添いと称して隣に並んだ丸井。考えとることは恐らく同じじゃ。


「…右目、だったよな」
「…ああ」
「手、大丈夫か?」
「痺れとるが動く。…目だったらこうはいかんだろうが」
「なあ、飛川ってなにもん?」
「知らん」


昼休み、赤也を捕まえて夢がどうのと言っとったことについて詳しい話を聞いた。なんでも昔、赤也がハゲる夢を見たと飛川に言われたその日に姉を怒らせて、バリカンで坊主にされそうになったらしい。馬鹿にしとるんかとそのワカメ頭を叩いた俺は悪くない。しかし他にも馬に撥ねられる夢を見たら自転車とぶつかりそうになったり、指を切断する夢を見たら突き指をしたりといったことが何度かあったのだと言う。

そしてようやく飛川から電話がかかってきたので、俺に関するよくない夢を見たのだろうと当たりをつけ、単刀直入になんの夢を見たのかと聞いた。すると飛川は、


『仁王先輩が右目を食べる夢を見たんですよ。なんであんな夢見たんですかねえ』


と、あっけらかんと答えた。とりあえずグロい。あとそんな夢を見た感想が“どこの夏侯惇かと思いました”なのはおかしいだろ。もっとなんかないんか。

突っ込む気にもなれんで電話を切った後、お礼を言うのを忘れていたことに気づいたが今更かけ直す気力は残っとらんかった。




予知夢? 2



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