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主人公(一年生)と青学



明日は土曜日で休みということと、父が出張で留守なのをいいことに母と私は県外の従兄弟の家まで遊びに来ていた。ちなみに母の妹さんの家でもある。そして二十分ほど前に「そろそろかずくんの部活も終わる頃じゃない?」「あら、もうこんな時間」「あんたちょっと迎えに行ってきなさいよ」と家を追い出された。なんで私が。

仕方なくバスに乗り込み、なんともこっ恥ずかしい名前の学園へと向かい、従兄弟のかず兄にメールを送ったところで二十分。中に入るわけにもいかないので校門前で待っていると、かず兄から電話がかかってきた。


『佳澄!?マジで学校に来てるのか!?』
「うん。今校門前にいる」
『マジかよ…今すぐ行くから、絶対サッカー部の奴には見つかんなよ!』
「無茶言わないでよ…って、切りやがったあいつ」


無情な終話音に青筋を立てながら電源ボタンを押す。すでに部活動は終了したのか生徒たちがぞろぞろと出てきているし、当然私服で校門前に突っ立っている私は悪目立ちしている。くそ、早く来いやかず兄。


「誰か人を待っているのかな?」
「うお!?あ、はい…」
「ふふ、ごめんね。驚かせて」
「いいえ、こちらこそなんかすみません…」


とうとうここの生徒に話しかけられてしまった。色素の薄い髪に柔和な笑み。…えらい美少年だ。とりあえず肩にかけられたテニスバッグからしてサッカー部ではないので、かず兄に文句を言われることはないだろう。


「ふーじ、誰と話してんのー?」
「誰かを待ってるみたいだったから、知ってる人なら探してこようかと思って」
「もうすぐ来るって言ってたんで大丈夫ですよ」
「だれだれ?俺の知ってる奴かにゃー」
「こら、英二。あまりしつこく聞くものじゃないぞ」
「大石のケチ!」
「あれ?みんな集まってどうしたの?」


なんか増えた…!しかも全員テニス部…!私一人ならちらっと見て素通りという人も多かったが、変にここの生徒が集まっているもんだから視線がじろじろとしたものに変わってきている。おまけにテニス部が一人、また一人と増えるわで、今はなぜか誰を待っているのか当てようと軽いクイズ大会になっている。探してきてくれるんじゃなかったのか。

ふう、と溜め息をつきながら携帯を見る。着信もメールもない。次いで校門の奥に目をやると、見慣れた短髪がエナメルバッグを揺らして駆け寄ってきた。


「佳澄!!」
「遅い」
「ばっ!わざわざ着替えないで来てやったのに…!つーかなんで不二たちといるんだよ…」
「待ち人は墨下だったんだね。彼女?」
「ちっげーよ!ただの従姉妹!!」
「ムキになるところが怪しいな」
「乾まで…。よりによってお前らに見つかるとかホントねえわ…」


かず兄はユニフォームの上からジャージを着て、ハイソックスは履いたままという格好で来た。どうやらこのテニス部の人たちと知り合いだったらしく、私のことでいろいろからかわれている。同い年くらいの女子が校門で待ってる、なんて言ったらそういうことだと思うわな。実際はただの親戚だけど。

助け舟をかねてお腹が空いたから帰ろうと袖を引けば、かず兄もそうだなと頷いてテニス部の輪を抜けた。のだが、なぜか眼鏡の人に進行方向へ先回りされてしまった。


「墨下のことを“かず兄”と呼んでいるということは一年生か?」
「はい。学校は神奈川ですけど」
「乾に“かず兄”とか言われたくねえ」
「いいじゃないか、かず兄」
「不二まで悪のりすんな!」
「かず兄その子の名前教えて欲しいにゃー」
「ぜってーやだ!帰るぞ佳澄!!」


かず兄って馬鹿だ。絶対馬鹿だ。知ってたけど。

またね、佳澄ちゃん。なんてテニス部の人たちに手を振られて、からかわれて顔を真っ赤にしたかず兄に腕を引かれる。その後すぐにやって来たサッカー部の人たちにも捕まって、かず兄は二度とくるなと怒った。それは私じゃなくてお母さんたちに言ってほしい。腹いせに向こう脛を蹴り上げたある日の夕方のことである。




主人公(一年生)と青学

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