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アリの行列



それはたまたま、ハンとジンとおまけの仁王先輩と散歩をしているときに見つけた。


「アリの行列だ」
「…なんか運んどるの」
「んー、ちっちゃくてよく分かんないですけど、向こうから来てるみたいですね」
「よう働くのう、ちまいのに」
「そりゃ働きアリって言うくらいですから」


道の脇を連なって歩く無数のアリ。一方の列は何かを運んでいて、もう一方…ちょうど私たちと同じ進行方向へ向かう列は何も運んでいなかった。ついでだからとアリの行列の横へ並び、お座りしながらもそわそわとこちらを見ていたハンとジンに、歩き出す合図を出した。

植え込みの中を通ったり、道に生えている草の間を縫うようにして続く行列。まだその先は見えてこない。仁王先輩もあまり興味のない振りをしているが、視線はしっかりと行列を追っている。私としては何かの気まぐれでアリを踏み潰したりしないかちょっと心配だったりする。


「知っとるか?アリがどうやって行列作っとるか」
「え、前歩いてる奴を追っかけてる、とか…?」
「阿呆。エサも見つけとらん内から行列作ってどうするんじゃ」
「あ、そっか」


そもそもアリの視力で前の奴を追いかけられるかも分からなかった。なら触覚で何かを嗅ぎとっているのかと聞くと、少し正解に近づいたなと鼻で笑われた。たぶんこれ、正解にはまだほど遠い。


「ヒント。ヘンゼルとグレーテル」
「似合わねえ」
「……」
「いだだだだ…!耳引っ張らないでくださいよ!!」


だって仕方ないじゃないか。あの仁王先輩がよく分からないが童話なんてメルヘンなものを例えに出すのだから。引っ張られて痛む耳を抑えつつ睨めば、行列の先に着くまでに答えないとまた引っ張るとほざきやがった。冗談じゃない。どうしてアリの行列ごときでこんな痛い思いをしなければならないんだ。


「ヘンゼルとグレーテルってあれですよね、お菓子の家?」
「違う。そっちの意味じゃなか」
「えー…じゃあ、おばあさんに食べられそうになる…」
「…おまん、わざとやっとらんか」
「少しだけ…っとお!二度目は食らいませんよ!」
「チッ」


少しふざけていたらまた耳を引っ張られそうになった。すんでのところで避けたが、たぶん仁王先輩の性格からいって次は避けさせてくれないので真面目に考えることにする。

ヘンゼルとグレーテル…。たしか最初は捨てられそうになった兄妹が、来た道が分かるように目印を落としていく話だったような。


「なんか、目印になるようなものをアリが残してるってことですか?」
「まあそれで正解にしといたる。正確に言うとフェロモンじゃけんどな」


仁王先輩曰く、エサを取ったあと、巣までの道のりにフェロモンの道標を残していくのだという。他のアリはそのフェロモンの跡を辿ってエサにありつき、また巣に持ち帰って…というのが集まってアリの行列ができるんだとか。そんなこと今まで気にしたこともなかった。ちなみに障害物などを置いてフェロモンの道(なんかやらしいな)が途絶えると、しばらくその場で迷ってしまうらしい。知らなかった。


「でもどうして仁王先輩はそんなこと知ってるんですか。アリが好きとか?」
「んなわけあるか。授業でやったじゃろ」
「理科?」
「国語」
「ウソだ!」
「ウソじゃなか」
「うわ、仁王先輩がそれ言うとすっごく胡散臭…いでっ」
「ほれ、ゴールが見えてきよった」


ゴール、と言われて前を向くとアリの行列のゴールではなく私たちのゴールがすぐそこだった。つまり我が家。もう少しアリの行列を追いかけてみたかったけどなあと呟くと、仁王先輩はちょいちょいと手招きして庭先を指さした。なんと、アリの行列が私の家の庭まで続いていたのだ。

…ということはそこにエサがあるということになるわけだが…庭にそんなものがあっただろうか。花の蜜とか?


「俺は虫の死体に一票」
「ちょっ…!やめてください想像した!気持ち悪い!」
「ほれ、アリんこのゴールじゃ」
「うええ見たくない…」
「おまん、庭で菓子でも食ったんか?クッキーじゃろ、これ」
「え、ホントだ」


仁王先輩が言った通り、アリたちが運んでいたのはクッキーだった。軒下にあるそれを見て、ハンとジンが興味を示してしまったので慌ててリードを引っ張る。わざわざ庭に出てクッキーを食べた覚えはない。が、そういえばリビングで掃除をしていたときに何か蹴っ飛ばしたような気がしないでもない。もしかしたらこれがそうなのか。


「なんにしろ虫の死骸とかじゃなくて良かった…」
「虫をバラすときは集団で運ぶから行列見りゃわか、」
「もうそれ以上口開かないでください」


グロテスクなものを想像させるようなことばかり言う仁王先輩の口に手のひらを押し当てた。よく考えたらこの行動の方がダメージがでかいと気づくのは数秒後のことである。

洗っても洗ってもフェロモン的な何かが残っているような気がして気持ち悪かった…。




アリの行列



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