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アンノウン・ワールド:03


結局、逢坂の過去や背景といったものが何も分からないまま一週間が過ぎ、俺の黒い好奇心も大人しくなり始めた頃。
いつもなら女の子に囲まれないようにと昼飯に誘ってくれる先輩たち(本人はそんなこと一言も言っていないが俺は勝手にそう解釈している)が調理実習だったり委員会の関係だったりで「たまには教室で食えよ」と言われてしまった。がっくし。
別に一緒に食う奴がいないとかそんな寂しい理由ではなくて、教室だと視線が煩いから嫌なのだ。今までは先輩特権でしか使えないような場所で食べていたが、さすがに俺一人で突っ込む勇気はない。困った。溜め息が出る。

「あれ?黄瀬、今日は教室で食うの?」

渋々、今朝コンビニで買ったパンなどを取り出していたら逢坂に声を掛けられた。弁当一式を持っているところからして、これからどこかに移動するらしい。

「まあ、たまにはね」
「んじゃ俺らと食う?いっつも俺らだけで陣取ってるから他の人来ねえよ?」

思わず瞬きを数回。つっかえながら返事をすると、逢坂はまるで俺の考えることなどお見通しとでもいうように「飯くらい落ち着いて食いたいもんな」と笑った。そして弁当一式を持って教室の一番後ろに向かい、廊下に出るのかと思ったら真逆の窓側へと向かう。逢坂にくっついてベランダに出ると、教室内からは窓の位置の関係で見えなかったクラスメイト三人がすでに弁当を広げていた。その中にはいじられキャラの芝崎もいる。

「購買行ってたん?」
「行ってねえよ。黄瀬誘ってた」
「ほう?」

三人分の視線が俺に集まり、「ども」と軽く頭を下げてみる。すぐに「どもども」と軽く返してもらえたので邪険にされずに済みそうだ。逢坂はそんな三人の足を跨いで柱の出っ張りの奥へと行ってしまった。俺も慌てて後に続き、促されるまま座る。

「やっぱ背高いな。何センチ?」
「189だけど……あ、ありがとう」
「ほぼ190じゃねえか!その内2メートル行きそうだな」

俺の後ろの窓を開け、少しだけカーテンを引いた逢坂。それが俺の飛び出た頭を教室側から隠すためだと分かり、お礼を言ったのに身長にだけ食いつかれてスルーされた。いいけどね、別に。
コンビニ弁当を膝の上に乗せ、残りのパンは袋に入れたまま脇に置く。逢坂は泥棒の風呂敷みたいな柄の巾着から弁当箱を取り出した。買い弁じゃないんだ。やっぱり家族仲はいいらしい。
唐揚げを箸で転がしながら、当たり障りのない話題を探す。

「逢坂くんは身長いくつ?」
「んー。177。でも俺は筋肉ねえからダメだ」
「部活とか入んないの?」
「うん」

簡潔な答え。少し待ってみたが薄く笑うだけで理由を話す気はないらしい。また顔を出し始めた黒い好奇心には気付かない振り。俺は視線を弁当に戻し、遊ばせていた唐揚げを口に放り込んだ。うーん、もうちょい薄味の方が好み。

それからもぽつり、ぽつりとこぼすような会話を続けて昼休みは終わった。春の日差しで暖かいせいか、ベランダは思ったより居心地がいい。また先輩たちが捕まらなかった時はここに来よう。

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ここまで



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