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アンノウン・ワールド:01


背が高くて、それなりに容姿が整っていて、話してみると子供っぽくて、だけど時折見せる表情が妙に大人っぽいだとか、流行にうと過ぎて天然っぽいだとか、そこがまたいいだとか。

詰まる所、逢坂浩平という人間は男女共にモテる人間だった。



「お前すげえな、モテ方が漫画みてえ」

初めて逢坂に話しかけられた言葉はそれだった。たしか昼休みが終わる間際で、廊下で女の子たちに手を振っている時だったと思う。彼はこちらが二の句を継ぐ前に席に戻ってしまって、俺はなんの言葉もかけられなかったのだけど。


「お前バスケうめえんだな。背高いのもそのせいか」

次に話しかけられたのは、誠凛との練習試合で負けて一週間くらい経った頃。調子に乗ってるからだ、三年だけなら勝てたんじゃ、どうせ練習も真面目にやってないんだろ。あの時の俺は耳障りな囁きに聞こえない振りをして、耳を塞ぐようにボールの音ばかりを追いかけていた。妬みの声には慣れている。だけど、純粋な声には慣れていなかった。
言葉の意味を問う前に、彼の視線は逸れてしまったのだけど。


「お前すっげえ肌キレイだな。芸能人みてー」

三回目に話しかけられたのは、初めての席替えで彼と隣になった時。「黄瀬涼太」の名前を知らないかと聞いたら、彼は「お前の名前だろ」と答えた。後ろで女の子が「雑誌とかによく載ってるでしょ」と俺が求める答えへと誘導する。しばらく悩んでいたと思ったら、彼は自信満々にこう答えた。

「黄瀬ってあれか!バスケの!」

この後のことは、一生忘れられそうにない。何せ二つ三つ会話を交わしたところで彼が突然倒れたのだから。浅い呼吸を繰り返して震える体を抱きとめ、わけも分からないまま保健室へ走った。
身長の割に軽い体。何か持病でもあるのかと先生に聞いたが答えはノー。担ぎ込まれた病院で出た診察結果はただの貧血。だけどあれは、そんな簡単なものじゃない。

「悪いんだけど、昔のことは聞かないでもらえると助かる」

彼は何か、心に大きな傷を抱えているらしい。その傷を抉らずに触れる術を知らない俺は、ただ黙って頷くことしかできなかった。


これが、逢坂浩平という人間に興味を持った最初の出来事。



アンノウン・ワールド:01

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