知念寛の目撃情報



俺のクラスは、隣の五組と合同で体育を行う。つまり慧くんと一緒。ここしばらく男子も女子もフットサルをしていたのだが、男子の方は慧くんが圧倒的な存在感を放っていた。ゴールキーパーと思うことなかれ。慧くんはフォワードだ。


「おいサッカー部!ゴール前で田仁志に放り込むのやめろやー!」
「わったー潰されるやっしー!」
「それが狙いだしなー」
「おう、田仁志ナイスゴール!」


悠々とヘッドを決めてチームメイトとハイタッチを交わす慧くん。俺はもう少し動けとチームメイトにどつかれた。高さは同じぐらいだが、どう考えても慧くんに当たり負けするのであの中に混ざる気はこれっぽっちもない。まあ、スローインくらいならやってやらないこともない。

と、中途半端な位置でぼんやりしていたら、試合がないチームの女子が遠巻きに観戦していることに気がついた。だいたいが慧くんを指さして笑っている。


「あぬデブ身軽すぎやっしー!」
「田仁志ー!ちばりよー!」
「六組もちばりよー!ほどほどにー!」


あれは五組の女子だ。冷やかしのような声援だったので、慧くんは「デブは余計さー!」と言って怒っていた。その間に俺のチームが一点を返した。近くまでやって来たチームメイトにまたどつかれた。

五組がセンターサークルからスタートし、ボールがあっちこっち行っている隙に審判に残り時間を尋ねる。俺の名前を呼ぶ怒声が聞こえた気がしたが、たぶん気のせいだ。残り時間はあと五分。慧くんならもう一、二点くらい決められるだろう。

そしてふと、一人の女子が目に留まった。野次のような冷やかしのような声援を飛ばす女子の中で一人だけ、じっと黙って慧くんを見ていたのだ。あの体型であの身軽さだから物珍しいのかもしれない。二年以上同じ学校にいるのだし、今までにも見たことはありそうなものだが。一緒にテニスをしている俺ですら未だに不思議に思うのだから、時間は関係ないか。


「はっはっはー!!わんに敵う奴はねーらん!!」
「知念んんん!やーが動かんせいでわったーは一人足りん状態やったんどー!!」
「あい、わっさん」
「どこ見て謝ってるばー!!」


チームメイトにお腹をどつかれる慧くんと俺。その意味は真逆。次の試合相手は慧くんがいないから、ちょっとは動いてやってもいいと返したらこき使われた。口は災いの元とはよく言ったものだ。次からは気をつけよう。




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