平古場凛の目撃情報



俺の元へ耳寄りな情報が入ってきた。同じクラスの裕次郎を小突くと、奴もにやりと笑って頷く。どうやら考えていることは同じらしい。


「へーく調理室行かんと!」
「おう、そーそーしねえとあぬデブ全部食っちまうどー」


机の上の教科書やノートもそのままに、俺と裕次郎は教室を飛び出した。これから昼休みとあって廊下は人で混んでいる。階段を数段飛ばしで駆け下り、怒鳴る晴美ちゃんは無視して、「何をやっているんですかあなたたちは」と呆れ顔の永四郎にはゴーヤは勘弁と叫んで逃げ、ついでに縮地法なんかも使ったりして。

ここまで必死になってやって来た調理室。中からは楽しそうな人の声、そしていい匂いが漂ってきている。ドアの前でどっちが先に入るかで少し揉めたが、転がり込んだ先で発した言葉は二人とも同じだった。


「「まだ残ってるか!?」」
「あい?やったーら、ぬーしに来たばー?」
「おいデブ、へーくわったーに料理出せー」
「慧くん!慧くんの料理!親父さん直伝の料理の腕を見てやろうと思ったんだしよ!」


見れば田仁志はまだ料理を食べているところだった。一人だけ大皿に盛っていることはこの際無視しよう。先生にはまた来たのかと笑われた(実は前回の調理実習のときも味見に来た)。そりゃあ田仁志は親父さんがレストランのオーナーシェフをしているだけあって料理は上手いし。うちの学食もそれなりに美味いがいかんせん、ゴーヤデラックスなんてものがあるせいで嫌でもゴーヤが目に入るから駄目だ。あと臭いもな。

だからこっちの料理(ちなみにメニューはハンバーグ)を味見してやろうと思って急いで来たというのに…。


「わんが作ったのはさっき食い終わった」
「「かってんぐわー!!くぬデブ!!」」


俺たちは突きつけられた非情なまでの現実に膝から崩れ落ちた。今食べているのは同じ班の女子が作った分らしい。それはそれでいろいろおいしいのだが、このデブが「わんが作った方がまーさん」と余計なことを言いやがったのでもらいにくくなってしまった。追い打ちかける気かデブのくせに。

しかし女子も女子で、俺たちが来たときには怯えたように縮こまって食べていたのに田仁志には文句を言い返していて少し驚いた。俺たちが怖くて田仁志が怖くないって…どういう基準だ。あれか、マスコット的なあれか。


「ミートボールまーさーん」
「あい!?やーはいつの間にもらったばー!?」
「そっちの班の女子がくれたんさー」
「わんも食う!」


と、この時は目先のミートボールに釣られてしまったが、二人をもっとよく見ておけばよかったと後悔するのはもう少し先のことである。




平古場凛の目撃情報


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