新垣浩一の目撃情報



その光景を見た瞬間、有名な童話のタイトルが真っ先に頭に浮かんだ。


(美女と野獣やっしー…)


同じ班の奴らと昇降口の掃除をしていた時、向こうからやって来た田仁志先輩と女子の先輩を見てそう思った。先輩たちはゴミを捨てに行く途中らしく、それぞれひとつずつ大きなゴミ袋を持っている。同じ大きさのはずなのに、田仁志先輩のゴミ袋の方が小さく見える理由は…まあ、うん。そういうことだ。


「おー、新垣ー。やー、ここの掃除当番だったばぁ?」
「はい。先輩はゴミ捨てですか?」
「じゃんけんで負けた」
「ああ…」


空いた左手をひらひらと振り、口をへの字に曲げる田仁志先輩。と、その斜め後ろで忙しなく視線を動かす女子の先輩。近くで見ると一層小さく見えるというか、田仁志先輩の隣だとそう見えるというか。とりあえず小動物みたいな人というのが第一印象。

田仁志先輩は何を思ったのか、その先輩(名前が分からないからややこしいな)の持っていたゴミ袋を取り上げるなり俺に押し付け、彼女には職員室で新しいゴミ袋をもらってくるように言いつけた。決して“頼む”なんて言い方ではなかったのに、ほっとしたような顔をしたあの先輩はよっぽど田仁志先輩が苦手なのだろうか。いや、でも何度も申し訳なさそうにお礼を言っていたからただの親切と受け取ったとか?よく分からない。

…というか、このゴミ…俺が運ぶの?


「田仁志先輩ならこれくらい一人で運べるんじゃないですか?」
「だぁがどうした」
「…いや、なんでもないです」


暗に先輩一人で運んでくださいと言ったつもりだったのだが、通じるはずもなかった。知ってたけど。

ついこの間引退したばかりの先輩たち。田仁志先輩の代わりに他のどの先輩を浮かべてみても俺がゴミを捨てに行く結末しか見えないのはなぜだろう。人使いが荒くて遠慮がないのはあの人たちの共通点。それをなんやかんやまとめてくれていた木手部長の手腕はたしかだった。

これからは、俺がそうなっていかなくてはいけないと思うと、少し気が重い。それで少しだけ、最後の試合を思い出して胸の奥が沈んだ気がした。


「へーくしれー、新垣ー」
「あ、置いてかないでくださいよ!」


同じ班の連中はお疲れさまとでも言いたげに苦笑いして手を振るだけ。あいつら、もう宿題を写させてやらないからな。

ひと睨みだけ返して田仁志先輩を追いかけ昇降口を抜けると、先輩はちょうど見回りをしていたらしい先生にお腹をどつかれていた。これは他の先輩に聞いた話だが、田仁志先輩は職員室に行く度、誰かしらにお腹を触られるから極端にあの場所を避けているんだとか。だから今日も女子の先輩だけを行かせたというわけだ。


「田仁志ー!やーはちっとは痩せろー!くぬがちまやーが!」
「あがっ」


結局、田仁志先輩は今ここでどつかれているから俺だけが迷惑を被る結果となった。なんだかなあ、まだまだ先輩たちに振り回される気がしてならない。




新垣浩一の目撃情報


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