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雨上がりを待つ



今日は沙耶がバスケの県大会で公欠だ。二年生ながら身長が高く、部内一の体力を持つ沙耶はスタメン入り。初戦は何度も練習試合を組んだことのある相性のいい学校らしく、昨夜電話で聞いた声は明るいものだった。

女子バスケ部の沙耶、男子バスケ部のたっちゃん、サッカー部の幸弘と友井、テニス部の赤也、深雪。試合に出る出ないは別にして、みんなそれぞれの部活で県大会を順調に勝ち進んでいる。いまさらだが私の周りってみんなすごいな。かず兄もこの前の試合で勝ったと言っていたし、関東大会まで進めばまたいつぞやの立海対青学の練習試合のように友井も試合をすることになるかもしれない。

それにしても、だ。


「私も部活入れば良かったかなあ」


こうみんなの大会が続くと嫌でも考えさせられる。ハンとジンといたいからと帰宅部を選択したが、部活をしながらでも散歩に行くことはできたじゃないかと今になって若干の後悔の念が浮かんだのだ。

空席の目立つ教室内。うちの学校は勉学の方は微妙だが部活動には力を入れており、県大会へ進んだ部活も少なくない。そのため大会の時期はほとんどの授業が自習になる上に給食も止まって弁当持参になる。元気の有り余っている運動部がいないせいか、学校全体が静まり返っているような気がする。

そして本来なら私の隣も空席になっているはずなのだが、そこには一人の女の子が居座っている。


「なに、佳澄部活入りたいの?写真部来れば?」
「うーん…それはなんか違う。運動部とかこう、体張った勝負事がしたいというか…」
「写真だって体張った勝負事だって。撮ってるうちに地べた這いつくばってたりとかよくあるし、コンクールで賞取るのは勝ち負けだろうし」
「…明日香ちゃん、それで文化部なのに放課後はジャージなのね」
「おうともさ」


そう言って凛々しい顔で頷く明日香ちゃん。彼女はふんわりとした見た目に似合わずとてもさっぱりした性格で、クラスの中でもよく話す方だ。ちなみに今は授業中なのだが引率でいない先生も多いため、最初にプリントを配るなりすぐに別のクラスへ行ってしまった。よって他のクラスに聞こえるほど騒ぎさえしなければ何をしても咎める人はいないのである。

明日香ちゃんはほとんど空欄のままのプリントに落書きを始め、佳澄は意外となんでもできるからなあと笑った。意外とは余計だ。


「要はあれでしょ?友達と体動かして青春したいってことでしょ?」
「…否定はしない」
「なら運動部の県大終わったら体育祭と文化祭の準備始まるから、そっちで燃えなよ」
「おお…!その手があった!ありがとう明日香ちゃん!ナイスアイディア!」
「じゃあこれで貸し一ね。その内返してもらうからそのときはよろしく!」
「えっ」


何それ聞いてない。得体の知れない貸しを何に使うつもりだと言うんだ彼女は。そもそもあの程度のことを貸しにするのか。どうか変なことは勘弁してくれと懇願すると明日香ちゃんは変は変でも上に大がつくとのたまった。つまり大変。いよいよ勘弁していただきたい。


「まあ、貸しがなくても佳澄には頼むつもりだったんだけど」
「せめて何かだけでも教えてください」
「梅雨が明けたらね」
「梅雨?」
「そ。雨が降ってたらできないんだ」


雨が降っていたらできないこと。つまり外ですること、なのだろうか。右に左に首を捻る私のことなどすでに眼中にないのか、明日香ちゃんはくせっ毛を掻き乱して髪が広がると唸っている。勇ましい。

私はふと目に入った時計を見てこれはまずいと再びプリントへ向き直った。明日香ちゃんは梅雨が明けたらと言っていたがまだすぐには明けそうにないし、うまくいけばこのまま忘れてくれるかもしれない。いやでも貸しがなくとも頼むつもりだったというのが気になるところではあるが…。とにかく今考えるのはやめよう。そのときになってから考えればいい、はずだ。たぶん。

外を見れば曇り空。そろそろみんな一試合目くらいは終わった頃だろうか。離れたところからしか応援できないというのも寂しいものだ。




雨上がりを待つ

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