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答えはイコール



風邪からの完全復活を遂げた私は雅樹と祥平を連れてコンビニへとやってきていた。この間のお礼としてアイスを献上するためである。ハーゲンダッツをたかろうとする祥平にはガリガリ君より割安になるパピコ(二分の一)にするぞと脅して、妙にご機嫌な雅樹からはスーパーカップを受け取った。


「雅樹さ、なんかいいことあった?」
「今日は兄ちゃんが早く帰って来るって言ってたんだ。だからナイターある所に行って一緒に打とうと思って」
「あれ?雅樹の兄ちゃんもテニスやってるの?」
「そうだよ。言ってなかったっけ?」


はて、似たような話をどこかで聞いたような、いないような…。ちなみに兄ちゃんの名前はと聞くとマサハルと返ってきたのだが、私の知り合いにマサハルなんて人はいないしやはり気のせいだろうということにした。

買ったアイスをコンビニの前で食べ終え、祥平はゲームをするからと家へ帰り、雅樹も兄を待つため家へ帰ろうとした。しかし、なぜか私の家の側まで来た辺りで急に足を止めてしまったのである。いったいどうしたというのか。理由を聞こうと顔を覗き込むと、雅樹は子供らしく嬉しそうに笑ってこう言った。


「決めた!兄ちゃん迎えに行ってびっくりさせる!」
「兄ちゃんの学校近いの?」
「立海だから少し遠いかな。佳澄姉ちゃんも散歩がてら一緒に行かない?」
「いいよ。私も立海の友達に会いたいし」
「じゃあ決まり!ハンとジンも兄ちゃんに会わせてやるからなー」


ハンとジンを少し乱暴に撫で、雅樹はリードをひとつ掴んで走り出す。どうやらこのまま立海までロードワークをかねて走るつもりらしい。普段の私の運動量を知っている雅樹は私が隣に並んでも驚かず、この前スクール内でやったリーグ戦で優勝しただとか、でもまだ兄ちゃんには敵わないだとか、俺も兄ちゃんみたいに強くなりたいなどなどと楽しそうに話してくれた。私には兄弟がいないので羨ましい限りである。

さて、数十分走り通したところで立海へ着いたが、雅樹の兄ちゃんがどこにいるのか分からない。練習が早く終るというならすでにコートにはいない可能性も高いし、となるとまずは部室へ向かうのが妥当だろうか。今回は完全なる部外者なので堂々と入っていくわけにもいかず、まずはまあ知人の手を借りようではないかと深雪へ電話をかけた。が、出なかった。部活中なら当たり前か。


「うーん…。雅樹だけなら適当な言い訳して中に入れると思うんだけど」
「えー…。俺一人で中学の敷地内入るの嫌だよ」
「それで私も連れてきたのか」
「まあそんなとこ」
「素直だな。で、どうする?このまま門で待つ?」
「うん。このまま待ち伏せしよう」
「イエッサー」


作戦から何からぐだぐだだ。行き当たりばったり感が否めない。まあどうにかなるだろうと適当に頷き、門にもたれるようにして腰を下ろした。

それにしても、いまさらだが雅樹の兄ちゃんに会ってどうすればいいのだろうか。よく遊んでますだのと自己紹介したところで「はあ…」としか言いようがない気がする。とりあえずハンとジンの自慢でもしておけばいいのか。

私は兄ちゃんの顔が分からないので見張りは(一方的に)雅樹に任せてハンとジンを撫でつつ、人影が見える度に確認して少しがっかりする顔を横目に見ていた。

その表情が変わったのは立海に着いて十分ほど経った頃だろうか。はっとしてはがっかりしていた顔がこう…ぱあっと輝いたので、私もようやく来たかと重い腰を上げた。雅樹はその笑顔のまま「兄ちゃん!」と嬉しそうに駆け出し、さてご尊顔をと思ったらなぜかハンとジンまで駆け出し、ついでにその兄ちゃんとやらまで駆け出して来たので私はその場にうずくまった。嘘だろおい…兄ちゃんって…おい…。


「雅樹!それにハンとジンまでなんでおるんじゃ…」
「え?兄ちゃん知ってるの?」
「知ってるも何も…ちゅーか、ハンとジンがおるんなら飛川もおるんか?」
「飛川?誰それ。佳澄姉ちゃんならそこにいるけど」
「佳澄って…やっぱり飛川じゃろ」


頭が痛い。雅樹の兄ちゃんが仁王先輩で仁王先輩の弟が雅樹とか頭が痛い。雅樹は飛川=佳澄ということが分かっていないらしい。頭が痛い。もういろんな意味で。


「まさか雅樹の兄ちゃんが仁王先輩だったなんて…」
「ちょっと待て、おまんらいつから知り合いだったんじゃ」
「兄ちゃんこそ。学校違うし接点ないはずだろ?」
「それを言うなら…いや、もうそれはこの際置いとくぜよ」


とりあえず目立つから帰る。

そう言ってさっさと歩き出した仁王先輩に、私は深く項垂れながらついて行くことしかできなかった。




答えはイコール

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