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人は専門外


たっちゃんから何やら不吉な話を聞いていからというもの、私はなるべく人通りの多い道を通るようになった。毎日同じコースを通っていたので忘れていたが、シベリアン・ハスキーが二匹というのは非常に目立つ。ご近所さんはもうすっかり慣れてたから忘れてた。視線がすごい。

なんとなく落ち着かない私など気にもせず、ハンとジンはいつもと違う景色にはしゃいでいるようだった。お利口さんな彼らが飼い主を無視してリードをぐんぐん引っ張るなんてことはないが、気持ち早足になっている。こういうところが可愛い。

そうやって毎日適当な道を通りつつ、テストが終わって本格的になってきた文化祭の準備でぐったりしつつ、まあ特に変化のない日常を繰り返していたある日の休み時間。沙耶が携帯片手に首を傾げながら私の席までやってきた。


「ねえ、幸村精市って知ってる?」
「知らない。誰それ」


聞き覚えのない名前を出されて私も首を傾げる。だよね、と溜め息を吐いた沙耶の視線は再び手元の携帯に。差し出されたその画面には、赤也に英語を教えてくれてありがとう、アドレスは赤也に聞いた、という旨が丁寧な言葉で綴られていた。赤也がシバかれるって言ってた先輩かな。文面からはそういう先輩に見えないけど。


「少なくとも二小の人じゃないよなあ」
「聞いてみれば?どちら様ですかって」
「幸村精市って名乗ってるじゃん」
「ああ」
「まあそこまで気になるってわけじゃないから別にいいんだけどさ」


知らない人からいきなりメールが来ればそれがどんな人物なのか気になるのは当たり前だろう。沙耶は大したことはしていないので、と当たり障りのない返信をしていた。いやいや、大したことあるよ。ワカメが人になれたんだもの。

ここでメールは終わるだろうと思ったのだが、予想に反して返信が返ってきた。今回のテストが酷かったら赤也はしばらく部活に出られなかったらしい。あとお礼が遅くなってすまないとも書いてある。なんて律儀な人なんだ!思わず赤也とは大違いだと呟くと沙耶も神妙な顔で頷いた。

今度はなんと返そうか悩む沙耶の横、私はこっそり赤也にいい先輩持ったなとメールした。返ってきたのはなぜかいつか倒すというやけにアグレッシブな内容。誰かこいつに躾けというものをしてやってくれないだろうか。



人は専門外

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