top : main : IceBlue : 66/140


私と彼の見解



仁王先輩が突然妙なことを言い出した。ハンとジンに会ってからお金が貯まるようになったと言うのだ。たしかにうちの子たちは金運すらも招きそうなくらい気高く美しく凛々しくそして愛らしく以下略だが、さすがにそういったご利益はないと思われるので適当にはあと相槌を打った。

そして家に帰ってからそのことを思い出し、スカイプという文明の利器を利用しながらポケモンバトルをしていた柳先輩に話してみた。ふむ、と顎に手を当てた柳先輩が私のズルズキンにさりげなくきあいだまを当てる。当然のごとく撃沈したマイヴィンテージ…なんてことをしてくれたんだゲンガーこの野郎!ほくそ笑みつつノートに何かを書き込む柳先輩の憎たらしさといったらない。…日に日に柳先輩のパーティが鬼畜度を増しているのは気のせいだろうか。


『それは恐らく、今までと仁王の生活リズムが変わったからだろうな』
「…と言いますと?」
『以前は外食が多く、映画やゲームセンターといった娯楽施設に赴くことが多かった。つまり無駄遣いが多かったんだ』
「しょーもねえ…」
『そこが仁王のいいところだ』


何をどうとっていいところなのかは分かりかねるが、要するに今まで遊びに使っていた分のお金が丸々残るようになってハンとジンが招き猫ならぬ招き犬であるかのような錯覚をしたらしい。まあ無駄遣いをしないのはいいことなので良しとする。

ゲンガーこの野郎に二タテされ、勝敗に決着がついたところで画面から顔を上げた。すると、楽しそうに口元を緩める柳先輩がじっとこちらを…たぶん見ていたので驚いてしまった。


「な、なんですか」
『いや、実に面白いデータが集まるものだと思ってな』
「はあ…」
『この調子で俺に興味深いデータを提供してくれることを期待している』
「その閻魔帳に私のことを書かないなら考えないこともないですけど」
『ははは、閻魔帳ときたか』
「百歩譲って書いていいのはポケモンのデータまでです」
『それはありがたい』


また楽しそうに笑って柳先輩はノートに何かを書き始めた。ポケモンに関係のないことである確率80%…なんちゃって。どうせ見せてくれないのだからそこに何が書かれていようと私が知ることはできない。いつもしらっと嘘をつく辺りは仁王先輩と似ているかもしれないと思う。あとは食えないところとか。

不意に、柳先輩はペンを走らせていた手を止めてそういえばと別の話を切り出した。それは学校で仁王先輩が野良猫に餌付けをしていたという話。注意したがいつものよく分からない台詞を吐いて逃げたので、あれはきっとやめるつもりはないだろうとのこと。


『仁王は一度懐に入れるとそれに執着するところがあるからな』
「あー…なんとなく分かります。自分のおもちゃを取られるのとか嫌いそうです」
『なるほど、そういう言い方もあるか』


私は仁王先輩はシベリアン・ハスキーに似ていると思っているが、いつだか誰かが猫に似ていると言っていた気がする。もしかしたら仁王先輩は猫に対して仲間意識が芽生えてしまったのかもしれない。あのおもちゃ箱のような鞄から猫じゃらしが出てきても私はきっと驚かないし、ひなたぼっこしながら猫と昼寝していても驚かない。むしろ容易く想像できたことに驚いた。

威圧感を感じさせるくらい目付きが悪いくせに、その奥に言いようがないほどの輝きを秘めているところがシベリアン・ハスキーに似ている。…恐ろしく恥ずかしいことを考えた気がするのでこのことは記憶から抹消する。

とりあえず、今私が考えるべきは仁王先輩のことではなく、どうやったら柳先輩をポケモンで負かすことができるかなのだ。




私と彼の見解

←backnext→


top : main : IceBlue : 66/140