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近づいて遠ざかる


無事にテストもテスト返しも終わり、渡された個票の好成績に思わずにやけた。これも勉強会のおかげだ。沙耶は赤也のスパルタ教育が忙しくていつもとあんまり変わらなかったみたいだけど。とりあえず勉強会の時に交換したアドレスに一斉送信でお礼メールを送っておいた(ただし赤也は除く)。

まだ冬は遠い。すっかり黄色く染まった銀杏並木の下、街を歩く。テストの結果が良かったので、頑張ったご褒美に好きなケーキを買ってこいと母に言われたのだ。買いに行こうじゃなくて買ってこいってあたりが母らしい。ついでにお母さんの分もとか言うあたりも。…あれ?自分が食べたかっただけなのか?


「あー、佳澄だ」


ふと、そんな声が聞こえて足を止める。きょろきょろと視線を動かさなくとも声の主はすぐに見つかった。つい最近まで勉強会の場を提供してくれていたたっちゃんだ。たっちゃんはさっぱりおっとりした性格で、いつもにこにこしているご近所さん。私はすぐに駆け寄って写メっておいた個票を見せた。


「ありがとう!たっちゃんのおかげで前回よりかなり順位上がった!」
「本当だ。佳澄がんばったもんな」
「いやいや、たっちゃんたちの力がでかい。深雪と幸弘にもありがとうって言っといてください」
「分かった。あ、でも赤也は?」
「あいつはむしろ沙耶に謝るべき」
「だなー」


本当はまた次も勉強会をと言いたかったが、さすがに図々しい気がして言えなかった。ら、なんとたっちゃんの方からまたやろうねと言ってくれた。天使か、君が天使か。お礼に私が食べる予定だったケーキをひとつあげた。その時の笑顔と言ったら…天使としか言いようがない。

たっちゃんは部活が休みですぐに帰るのもなんだかなあ、とぶらぶらしていただけらしく、そのまま流れで一緒に帰ることになった。途中、ハンとジンの話になってディスクドッグの新技を練習中なんだと伝えた。そこでふと、少し前に見た光景を思い出す。夜の公園、街灯に照らされたでっかいおじいさん(シャボン玉のオプション付き)。ご近所のたっちゃんなら何か知っているだろうか。


「あのさ、緑地公園あるでしょ?あそこで変なおじいさん見たことない?」
「幽霊?」
「予想外にどストレートでちょっとビビった。足は生えてたからたぶん違うと思うけど」
「足が生えてるのもいるよ。ハンとジンがやけに反応したりしてたら、気をつけた方がいいかもね」
「え」


ちょっと待って辰人さん。それって、そんな、ちょっと待って、それって。


「たまに出るよ、あの公園」


そう言ってのけたたっちゃんの笑顔を見て、しばらくはお散歩コースを変えようと固く誓うのだった。



近づいて遠ざかる

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