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大胆不敵はお互いさま



ゴールデンウィークが明け、学校中にやる気のない緩い空気が漂っていた。かくいう私もコーヒーカップのせいで全身筋肉痛なのでやる気がない。体中が軋んでいる。悲鳴をあげている。しかし先生たちの「ここテストに出すからなー」攻撃が始まったのでやる気がないなりに頑張ってノートをとった私を誰か褒めてくれ。

攻撃といえば仁王先輩のハンとジンに会わせろ攻撃がいい加減鬱陶しいレベルに達して困っている。合宿に加えゴールデンウィーク最終日は私を入れたいつもの六人で遊びに行ってしまったから、かれこれ一週間近く会っていないことになるので仕方ないのかもしれない。休み時間ごとに送られて来るプリやらピヨやらケロケロメールに逐一愛犬の写メを返してやる律儀な私を誰か以下略。


「佳澄ってさ、なんだかんだ仁王先輩と仲いいよな」


次はどの写真を送ろうかと画像フォルダを漁っていたとき、不意に沙耶がそんなことを言い出した。手からすべり落ちた携帯が鈍い音を立てる。散歩中に何度も落としているので今さら傷の一つや二つ増えたところで気にしないが、先ほどの台詞だけはそうもいかない。誰と誰が?私と仁王先輩が…?


「どこが!!」
「言っとくけど、これはあたしだけじゃなくて幸村先輩の見解でもあるから」
「は!?」
「ゴールデンウィーク中に一回お見舞いに行ってさ、そんとき“懐いているわけじゃないみたいだけど、一緒にいることを仁王が気にしない女の子は珍しい”って言ってた」
「それは女と思ってないだけだって。…というかお見舞い行ったの?」
「みんな合宿に行っちゃって暇だからって呼ばれた」
「なんてフリーダム…」


幸村先輩は相変わらずなのでもう気にしないことにしよう。それに暇つぶしのためだけに沙耶を呼んだわけでもないらしく、誕生日のお礼にと綺麗な水彩画をもらった。画用紙の中に咲き誇る色とりどりの花。絵の裏には花の名前と花言葉、それとお礼の言葉が書かれている。


“金魚草、花言葉は大胆不敵。物怖じしない飛川さんにはぴったりだと思うんだ。ジョウロはありがたく使わせてもらっているよ”


この言葉をしかと受け取った私は次に幸村先輩のところへ行く機会があったら金魚草を持って行こうと固く誓った。

それから放課後になって仁王先輩からメールが届いた。またどうせ意味の分からない一言メールだろうと思ったのだが、意外にも普通の連絡メールだ。今日は幸村の見舞いに行くから六時半に駅で待ち合わせするぜよとのこと。ちょうど買いたい本もあったしまあいいかと了承。の返信ついでに幸村先輩へ絵のお礼の伝言を頼んでおいた。

仁王先輩に直接会うのはかれこれ一週間振り。休みの間は約束通り夜の散歩を控えていたし、なんだかんだハンとジンも喜びそうな気がする。スカイプでは気づいていなかったが、仁王先輩なら会えばあの子たちの首輪が新しくなったことにも気づくだろう。

いつの間にか歌っていた鼻唄をそのままに家へ帰ると、母にニヤニヤして気持ち悪いと真顔で言われた。こちらも相変わらず辛辣だなと思った。

自室に入り、沙耶にもらったパンツ型ポストカードの横に幸村先輩の水彩画を並べる。びっくりするくらい私の部屋に似合わなくて、少しだけ笑ってしまった。




大胆不敵はお互いさま

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