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気分は逃亡者



赤也が爽やかイケメンさんからお礼と称してうさ耳をいただいた。男がうさ耳ってどうよとうだうだ言っていたが、それを言うならお坊さんにうさ耳ってどうよという話をして無理矢理つけさせた。どういうわけか意外と似合っている。

ファストパスやパレード時を狙い、それなりに順当にアトラクションを回る。最初の内、歩きながら話すのは最近のことが多かった。しかし面子が面子なせいか、次第に話題の中心はあのとき誰が何をしてという話に変わっていった。


「最初にここ来たのってたしか幼稚園のときだよな」
「あー…なんだっけ、夏休みに地区ごとでどっか出かけるってやつだっけ?」
「懐かしいね。あのときは赤也が迷子になって大変だったっけ」
「え!?そうだっけ!?」
「佳澄も探しに行って見つからなくなっちゃったのよね」
「お、覚えてない…」


とまあこんな具合に。ちなみに家へ帰ればそのときの集合写真もある。

…小学校のときはそれほど疑問に思うこともなかったが、私たち六人の関係はきっと端から見たら不思議なものなのだろう。特に中学に上がってからは付き合っているのではと誤解されることが多くなった。

違うんだ。私たちは単純な友達ではなく、親友とも言えるがそれよりも家族に近い関係なのだ。だから実は付き合っているのではと思われると、こう…ムッとするしイラッとする。うまく言えない。そんなわけでうさ耳集団に若干失礼な態度を取ってしまったことを少し後悔していたりする。


「佳澄、白石さんたちのこと気にしてんのかよ」
「なんで分かったし」
「なんとなく。別に気にするほどのことでもねえだろ。俺もあの手の勘違いは困るし」
「でも気になるなら声かけてくれば?ずっと俺たちの後ろにいるよ?」
「「へ?」」


たっちゃんが親指で指した方向を赤也と一緒に見る。しかしそこにうさ耳集団は見当たらない。いないけど、とたっちゃんに聞くとずっと奥の物陰に隠れていると答えてくれた。地図を広げ、それとなく場所を確認している振りをしながらそちらに目を凝らしてみればたしかにうさ耳が見え隠れしているではないか。しかし遠い。とても遠い。なぜたっちゃんは気づいたんだ。


「向こうは初めて来たみたいだし、俺たちと同じように回った方が効率が良いと思ったんじゃないかな」
「ならいいけど…下世話な勘違いだったら今度こそ張り倒す」
「ほどほどにね」


たっちゃんは一度だけうさ耳集団を見て、撒いてみるのも面白いんじゃないかなとにっこり笑った。でもあからさまに走って逃げれば向こうも便乗して盛り上がってしまうことは目に見えている。おまけに赤也曰く、スピードスターという(恥ずかしい)二つ名のある人物がいるらしいのでそれは得策ではない。

ということで、それとなくバラけて撒いてみよう作戦を実行することとなった。目ぼしいアトラクションはひと通り乗ったし、私たちもいつもと違う刺激が欲しいのだ。こんな広い場所で鬼ごっこまがいの遊びをするのはわくわくする。

グッチョッパーで分かれた結果、私とたっちゃんのペア、深雪と沙耶のペア、赤也と幸弘のペアに分かれた。合流場所は言い出しっぺのたっちゃんの提案でコーヒーカップになったが…まあそれは後で考えることにする。ルールは三組で別々のエリアへ向かい、戻って合流した時点で撒き切れなかったペアが罰としてジュースをおごる。携帯はこまめにチェックし、連絡を取り合うこと。


「そんな感じでいいかな?」
「いいともー」
「んじゃまた後でな!」
「おっしゃ!今日はおごらされてばっかだったから絶対勝つぜ!」
「そもそもついてくるか分かんなくね?」
「あら、みんなノリが良いからきっとついてくるわよ」
「みんなちゃんと撒いて来てねー」


走らず、それとなく、目的地が同じ者同士で別行動を取るように。六人一緒で行動すると、どうしても分かりやすい場所で待つようになるため、うさ耳集団も今までついて来ることができたのだろう。しかし二人一組なら小回りが利く。お互いに別の場所を移動しながら、なんてこともできる。おまけに私は視野の異常に広いたっちゃんとペアになることができたのだ。負ける気がしない。

そう考えるとなんだか気分が盛り上がってきた。いっちょ子供らしく頑張ってみるとしよう。




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