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ウザうさぎとの遭遇



赤也がテイクアウトしてきたモジャのっぽさんと赤毛のやんちゃ坊主は、なんと跡部さんとやら主催の合宿に呼ばれた大阪のテニス部員だった。「東京っちゅーたらやっぱここやろ!」ということで夢の国へ来たらしいが残念ながらここは千葉県だ。東京都ではない。

二人は着いて早々仲間とはぐれてしまったらしく、モジャのっぽさんがやんちゃくんを肩車をして探していたところを赤也が見つけたのだという。モジャのっぽさんは二メートルはあろうかという巨人なので、そんな人が肩車をしていたらたしかに嫌でも目立つなと思った。


「すんまっせん、せっかくんデートなんに邪魔ばして…」
「デートじゃないっすから!変な勘違いしないでくださいよ千歳さん!」
「なー、わいたこ焼き食いたいわあ」
「ポップコーンならあるけど」
「ほんま?食ってもええんか?おおきに!」


迷子になったときの鉄則は“その場を動かない”だ。しかしこの二人、どうやらあっちにいそうだこっちにいそうだとふらふら歩き回っていたらしい。何せ逸れたのが入場してすぐだというのに一番奥のコーヒーカップ付近で赤也と遭遇したのがいい証拠。携帯は充電し忘れて電池が切れているとかもう…連れの人は相当焦っているんじゃないだろうか。


「俺、四天宝寺の人の携帯なんか知らねえしなあ…」
「ばってん、金ちゃんの鞄に白石の連絡先が縫いつけてあっとよ」
「ちょ、それ先に言ってくださいよ!」


私の隣で美味しそうにポップコーンを頬張っていたやんちゃくんが、そういやそんなんあったなあと呑気な声で鞄を差し出した。ご丁寧に縫いつけられた連絡先、ワンポイントのカブトムシがなんとなく可愛い。

バスケ部組のたっちゃんと沙耶はモジャのっぽさんにバスケ部への転部を勧め、サッカー部の幸弘も空中戦でその身長を活かすべきとサッカー部への転部を勧めている。もちろん冗談半分に。一人になったやんちゃくんはたこ焼きを探しにどこかへ行こうとしたので首根っこを掴んで座り直させた。

それからしばらく経って二人を迎えに来たのはなんとも賑やかな一団だった。みんな可愛い耳をつけていているのだがなぜかうさ耳で統一されている。そしてセンターの爽やかイケメンさんがうさ耳を揺らしながら爽やかに手を振ってくるので私たちはそっと目を逸らした。


「そこは無視やのうてツッコミが欲しかったんやけどなあ」
「白石、なんばつけとっとね…」
「ん?千歳と金ちゃんの分もあるで。…っと、二人とも勝手にどっか行ったらあかん言うたやろ?切原くん、うちの部員見つけてくれておおきにな」
「っす」


爽やかイケメンさん、金髪さん、お坊さん、ツンツンさん、バンダナさんとオカマ?さんが、モジャのっぽさんとやんちゃくんを囲んで心配したんやからなと言いつつその頭にうさ耳をつけている。男ばっかりでうさ耳とかムサい。花がない。ただしやんちゃくんはギリセーフとする。

赤也と深雪がデートかとからかわれ始めたので、私はいつものことながら面倒だと思いながらうさ耳集団から視線を外した。しかし、そこでどえらい殺気を放つ少年とばっちり目が合ってしまったのである。


「…何見とんねや」
「たまたま君がそこにいた」
「チッ」


ピアスをじゃらりとつけた少年に舌打ちされた。面白いくらい機嫌が悪いらしい。触らぬ神になんとやらと、私はピアスさんから離れて沙耶の隣に並ぼうとした…のだが、右肩をがっちりと掴まれて無理矢理振り向かされてしまった。そこにいたのはきらりと眼鏡を光らせるオカマさんで、浮かぶ笑みに背筋が寒くなった。


「もしかしてとは思うたけど、声聞いて確信したわあ」
「はい?」
「仁王きゅんの彼女さんでしょ?きゃっ!浮気現場遭遇しちゃった!」
「…おい待てこら」
「おい待てこらはこっちの台詞や!小春に向かってなんちゅー口の聞き方しとんねん!死なすど!」


盛大に顔をしかめた上、先輩(と思わしき人)に対して失礼な口調になってしまったがこの際そんなことはどうでもいい。教室の隅に溜まった埃くらいどうでもいい。念のため聞き間違いかもしれないからともう一度言い直してもらったが、やはりとても気分の悪い言葉が繰り返されたので先ほどのピアスさんばりの舌打ちをかましてしまった。あとバンダナさんは少々お口チャックしていただきたい。

どうやらオカマさんは仁王先輩とスカイプしているときに映ったトーテムポールの一つだったらしい。とにかく自分と仁王先輩はそういう関係ではないし、赤也や幸弘、たっちゃんともそういう関係ではないと言い切って未だ絡まれていた他の面子を引っ張ってうさ耳集団に別れを告げた。

ピアスさんもお気の毒に。あんな面倒な絡まれ方をしたらたしかにどえらい殺気も放ちたくなるかもしれない。彼一人だけうさ耳をつけていなかったし、なんならこちら側に引き入れてあげた方が良かったかもしれないと後になって思った。




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