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気のせいじゃない


テスト週間に突入いたしました。この時ほど嘘の溢れる日はそうそうないと私は思う。勉強した?してないしてない。私もー、全然やってない。…嘘こけ馬鹿野郎。と、心の中で小さく叫ぶ。ちなみに一番嘘が溢れるのは四月一日で、次に多いのは持久走大会の日な。


「佳澄ー、今日このあと暇?」
「特に予定はないけど、なんで?」
「立海もテストらしくてさ、深雪が一緒に勉強しよーって」
「わー!行く行く!会いたい!」


遊ぶんじゃないんだからなーと笑うのは同じ小学校出身の沙耶。深雪も同じ小学校出身だけど、彼女は近くの私立校、立海…なんちゃら中に進学したのだ。会うのは久々だからすごく楽しみ!

テスト期間中は午前授業で終了アンド部活動も休み。普段会えない遊べない子と一緒にいられる貴重な時間だ。いや、ちゃんと勉強もしますよ。でないと後が怖いし。


「深雪にメールしたら立海行った男子も混ぜてくれって言ってきたらしくてさ、一番でかいたっちゃんちに集まることになった」
「たっちゃん!なつかしー!他にも誰か来るの?」
「赤也と幸弘も来るって」


みんな去年まで同じクラスだった友達だ。私は浮かれたまま友達の家で勉強会するから遅くなるよメールを母に送信。すぐにおみやげの四文字が返ってきたが、ほんの数百メートル先のお宅から何を持ち帰れと言うのか。まあ母のおみやげコールは挨拶みたいなものなので、ここは無視の一択である。

善は急げ。必要な教科書類を確認して、私たちはたっちゃん(本名:片山辰人)家近くのコンビニへ向かった。適当にお昼ご飯を買い込み、少し遅れて来た立海組と合流。久々に会ったみんなはどことなく大人っぽくなっていた、気がした。最初だけ。


「男子はやっぱり背伸びたなー」
「そういう沙耶もな。佳澄は全然伸びてねーけど」
「うるせー増えろワカメ」
「あら、ハゲろじゃないのね」
「俺はワカメじゃねーっての!」
「あはは!赤也がワカメって言われてキレねえの久々に見た!」
「だなー」


音にするならへらへら。口を開けば一年前と同じ愉快な仲間たちと化していたので、みんな変わってないなあという感想に落ち着く。ちょっと安心したのは内緒だ。

ほどなくしてたっちゃん宅に到着し、相変わらずでかいなと口々に言いながら上がり込む。そして、いざ勉強を始めるかというときになって致命的な問題が発生。公立と私立の差とでも言うべきか、お互いのテキストが違ったのだ。

これに一番狼狽えたのは英語が壊滅的という赤也だった。しょっちゅう家族で海外旅行に行っている沙耶が頼みの綱だったらしい。なんかずれてると思うのは私だけか。


「ワークとかやればどうにかなるんじゃないの?」
「どうにかならないから壊滅的なんだよ、こいつの場合」
「頼む沙耶!今回もヤバイと部活の先輩にシバかれるんだよ…!」
「まあ、あたしもきちんと勉強したわけじゃないから教科書英語はちょっと不安だけど。いいよ、誰かノート貸してくれる?」


都合良く神だなんだと崇める赤也をジト目で睨む。どうせ思考回路もその髪の毛のごとくうねり狂っていて二つの言語を頭で処理できないのだろう。哀れなり。

私は私で深雪に数学の証明を教えてもらうため隣の席を陣取った。深雪はなんだか優しくていい匂いがして、悟りでも開いたかのごとく穏やかな気持ちで勉強できた。たっちゃんと幸弘にも怪しいところを教えてもらい、これで今回のテストはいただきだと満足げに頷く。

教えてもらっているのが私と赤也だけな気がするのは気のせいということにしておく。



気のせいじゃない

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