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テーゼの歌が聞こえそう



ゴールデンウィーク初日。天気はあいにくの雨だった。


「雨かあ…。晴れてたらどこか出かけようと思ってたんだがなあ」
「明日は晴れるって」
「そうか。じゃあ明日はドライブでも行くか?」
「行く。あとハンとジンの首輪見たい」
「はいはい。そろそろ新しくした方が良さそうだもんな」


私の父もゴールデンウィークはお休みで、朝から二人並んで窓の外を眺めていた。天気予報によるとこの雨も夜には止むらしいが、今は薄暗い雲を広げるばかり。せっかくの長期休暇なのに出鼻を挫かれた気分だ。

だがまあ、休み初日から張り切って出かけることもないだろう。今日一日はゆっくりして、明日思いっきり遊べばいい。だらだらすることもまた休みを満喫していると言えるはず。たぶん。

そんなわけで午前中はテレビを見てだらだらした。午後になっても雨が止む気配はなし。だらだらしていることに飽きたのでまだ早いが中間テストの勉強をした。しかし今度はじっとしていることに耐えられなくなり、ここのところ出番のなかったハンとジンのレインコートを引っ張り出したのである。


「あんた、散歩行くの?」
「うん」
「じゃあついでに面白そうなDVD借りて来て。ラブストーリー系は却下」
「いつも通りSFでいい?」
「アクションでも可」


同じく暇を持て余していた母におつかいを頼まれた。今日は走れない分、距離を歩きたかったからちょうどいいと言えばちょうどいいかもしれない。財布は持った、うんちバッグ持った、レインコートも着た。よし。


「ハン、ジン、ステイね、ステイ」


玄関先に色違いのレインコートを着たハンとジンを並べ、携帯のカメラを起動。ベストショットが撮れたところでその写真をメールに添付し、仁王先輩宛に送信した。心の中では「しらがマン!ハンとジンの写真よ!受け取って!(裏声)」というテンションだが、文面は「散歩行ってきます」だけというシンプル・ザ・ベストなものにとどめた。さすがに仁王先輩相手にそこまではっちゃける勇気はない。

仁王先輩の返信は私がレンタルショップを出た頃に返ってきた。画面に表示されたのは「プリッ」の三文字だけ。私よりひどい。とりあえずこのプリはプリティーのプリと解釈することにして、メールは無視しよう。いやでもまた拗ねられても困るしティーだけでも返しておくか。意味が通じるかは別にして。


「…帰ったらてるてる坊主でも作ろうかな」


足下で水たまりが弾ける。…呟いた言葉に深い意味はない。ないったらない。ただ、せっかく父がドライブに行こうと言っているのに雨だと嫌だなあと思っただけで、別に雨だと練習ができないんじゃないかとかそんな…うおおお。

なぜか猛烈に恥ずかしくなって呻きながらその場にうずくまった。ちくしょう。なんて忌々しい雨なんだと睨もうとしたら目に雨が入ってとても痛かったので諦めた。馬鹿やってないでさっさと帰ろう。ストーカー問題もまだ完全に解決したとは言いがたいし、今日は天気が悪いから暗くなるのも早いんだ。

足早に家へと帰り、なんとなくで作ったてるてる坊主。日の目を見る前にハンとジンに首をもがれてしまったが、次の日はきちんと晴れたのでどうか成仏して欲しいと思った。うちの子マジで残酷な天使。




テーゼの歌が聞こえそう

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