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駄々っ子はやめなさい



仁王先輩がハンとジンの散歩に付き合ってくれるようになって三日が経った。当初は週に何回か、という予定だったはずなのだが今のところ皆勤賞。おまけに昨日は夕飯も食べずに我が家へやって来たので、見かねた母が父の分の夕飯を振る舞う始末。本人は食べなくとも平気だと言い張ったが、夕飯も食べずに来る、すなわち早い時間帯、転じて私は食事中ということなので問答無用で着席させた。せめて飯くらいはゆっくり食わせろと声を大にして言いたい。


「どうしたんですか仁王先輩。えらいテンション低いですね」
「明日から…ゴールデンウィークじゃ…」
「わーい?」
「明日から…合宿なんじゃ…!ハンとジンに会えんようになる!」


いつもなら覚えたばかりのコマンドを出してハンとジンを呼び寄せ、へにゃりとした笑みを浮かべる仁王先輩が見るからに気落ちした様子で玄関先に立っていた。合宿かあ。楽しそうな響きじゃないか。羨ましい。


「いいじゃないですか、合宿」
「修学旅行じゃなか」
「深雪も行くんですか?」
「…マネージャーやけんの」
「いつもの面子ですか?」
「氷帝の跡部っちゅー奴の主催じゃ。他にも何校か来るぜよ」
「み、深雪に変な虫がつかないように見といてくださいよ…!?」
「なして俺が」


そんなもん赤也じゃ頼りにならないからに決まっている。しつこいようだが深雪は美人だ。その上、運動部のマネージャーをしているせいか以前よりも性格が明るくなった。これは惚れないわけがない。惚れない奴はピーーだと言っても過言ではないが変な虫がつくのは困る。もしちょっかいを出されて深雪が困るようなことになったら…いかん、考えたらお腹が痛くなってきた…。


「合宿なら明日朝早いですよね今日はお散歩お休みにしましょうそうしましょう」
「な!?無理じゃ!!明日から会えんようになるだけでも耐えられんのに…!」
「いや、なんかお腹痛くなってきて…」
「なら俺だけで…いや、いっそこのまま合宿まで…」
「さあ今日も張り切って行きましょう!」


何やら不穏な言葉が聞こえたのでハンとジンを呼んですぐにリードを繋いで玄関から飛び出した。ついには大真面目な顔で「跡部に頼むからおまんも来い」だのと寝言まで言い出す始末。部活どころか学校すら違うのに行けるわけがないだろう。

とりあえず、合宿中は毎日ハンとジンの画像を送るからそれで我慢するようになだめてその日のお散歩は終わった。仁王先輩の相手も疲れるなとしみじみ思った。




駄々っ子はやめなさい

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