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薄っぺらい背中



公園でちびっ子たちと遊んだのち、早めの帰宅。実はずっと不在着信を知らせるランプが点滅していたのだが、表示されたのが未登録の番号だったので無視していた。番号からして携帯だということは分かるが見知らぬ相手にかけるのは気が引ける。間違い電話ということもあるし…とは思うものの同じ番号からの着信履歴が三回あるのでその線は消えた。明らかに私宛にかけてきている。これはかけ直さなければならないだろう。すごく嫌だ。

私は仕方なく着信履歴から発信ボタンを押し、嫌々電話をかけ直した。呼び出し音が一回、二回、三回。かけ直した事実は残ったわけだし切ってもいいかなと思ったところで呼び出し音が止んでしまった。ガッデム。


「…あ、もしもしお電話いただいたようなん、」
『おまん一人で公園に来たら本末転倒じゃろが』
「え?あれ?仁王先輩?…なぜ?」
『赤也に聞いたぜよ。これから赤也と家まで迎えに行くから待っときんしゃい』
「は、はい…」


言うだけ言って一方的に電話が切られた。通話時間は二十秒にも満たない。…よし、深く考えるのはよそう。赤也と仁王先輩が家まで迎えに来る。なら私はそれまで大人しく家で待っていればいい。OK、理解した。

仁王先輩と電話で話したのが夕飯を終えた後、時刻で言えば七時頃だった。それからリビングでハンとジンのブラッシングをしたり宿題をしたりして時間を潰すこと三十分。玄関のチャイムが鳴らされ、テレビの前から動かない母に蹴られながらへいへいと適当に返事をした。


「よーっす!仁王先輩連れてきたぜ!」
「よーっす、ご苦労さん。二人共ご飯は食べました?」
「食ってから来たナリ」
「俺は小腹空いた」
「じゃあお駄賃におにぎり作ってあげるから。仁王先輩もちょっと上がって待っててください」


赤也は勝手知ったるなんとやら、でさっさと靴を脱いでリビングへ向かった。仁王先輩はええんかと一度念を押してきたが、私も仁王先輩のことは母に説明しておきたかったのでどうぞと促した。母はまず赤也を見て久しぶりねと笑い、次いで入ってきた仁王先輩を見て何やら小難しい顔をした。


「そっちは初めましてかしら」
「仁王雅治っちゅーもんです」
「赤也の部活の先輩。しばらくハンとジンの夜の散歩に付き合ってくれることになったから」
「ふーん?」


納得したんだかしてないんだかよく分からない反応だ。母は顎に手を当てて思案するように仁王先輩の顔を眺めている。私は人見知り(仮定)の仁王先輩がこの訝しむような視線に耐えられるとも思えず、すでにじゃれついていたハンとジンの面倒を任せてソファに座らせた。とりあえずこれで仁王先輩も耐えられるだろう。


「あ、そういやこの前青学行ったんすけど、そこで和哉さんに会いましたよ!」
「あら、赤也くんってかずくんの知り合いだったの?」
「前に立海で練習試合やっててそこで会ったっす!」
「そうだったの。うちにも顔出してくれれば良かったのに」


キッチンでおにぎりを作りながら、リビングでの会話に聞き耳を立てる。主に母と赤也で話しているようだが、時折母が仁王先輩にも話を振っている。うちの子たちずいぶん懐いてるわねえ。匂いが同じらしいきに。あら、やっぱり?うちと同じシャンプーの匂いがすると思ったのよ。え、そうだったんすか?プリッ。…最後のははぐらかしたような気がしないでもない。

私は大きめに作った三つのおにぎりを持ち、赤也にハンとジンのリードを持ってくるように頼んで仁王先輩は先に玄関へ向かわせた。母は二人に遅くまで付き合う必要はないからね、と軽く笑って手を振っていた。


「はい、おにぎり」
「サンキュー。具は何?」
「ワカメ一択」
「…まあ食えりゃいいか」
「仁王先輩もどうぞ」
「俺はいらん」
「育ち盛りが何言ってんですか。別に変な具はいれてませんよ」
「あー…仁王先輩は小食っつーか、あんま食わねえんだよ」
「そうなの?道理で細っこいと思った」


細いというより薄いと言った方がいいかもしれない。横から見た時に胸筋、腹筋の厚みがない。ぺらい。脱いだらショボそう。

赤也と二人でおにぎりをむさぼりながらそんなふうに好き勝手言っていたら、ムスッとした表情の仁王先輩が私の手からおにぎりをひとつぶんどった。そしてハンとジンのリードを片手で持って無言で歩き出す。これはもしかしなくとも拗ねているのだろうか。…うーん、なんか違う気もするがどうでもいいか。


「じゃ!俺はこのまま帰るわ」
「あ、ちょっと進化させたいポケモンがいるから後でまた電話する」
「りょーかい!んじゃまた後でな!」


元気に手を振る赤也に別れを告げて、幾分遠くなった仁王先輩の背中を追いかけた。




薄っぺらい背中

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