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もっと笑って



本日土曜日。天気は鬱陶しいほどの快晴。なんと忌々しい太陽だろうか。昨今の温暖化といいヒートアイランド現象といい私とハンとジンにとっては死活問題である。夏が来たら一体どうなるんだ。まだ四月だけど。


「ごめんなさい、練習試合だからいつもより氷が多く必要で…」
「いいんだ深雪は気にしないで!頼ってって言ったのは私だし…というか深雪いっつもこんな力仕事やってるの?」
「ええ、そうだけど」
「…私も立海なら良かったのに」


本日土曜日以下略。わたくし飛川佳澄は急遽立海男子テニス部マネージャーの助っ人(というかパシリ)に来ております。部活動未所属な私が土日も暇人であることは事前に柳先輩の手で暴かれており、「どうせ暇だろう?ちょっと氷を買って来てくれないか」と有無を言わせぬお電話を頂戴した次第である。合掌。

今日は練習試合があるとかで、ジャグに使う氷が相手校分だけ足りなくなってしまったらしい。買いに行こうにも深雪は初めての練習試合でてんてこ舞い。そこで白羽の矢が立った私がコンビニで氷を買い込み、自転車で馳せ参じたのである。

氷のたくさん入ったジャグを冷蔵庫のある家庭科室から外まで運んで、そこから台車に載せてコートまで運ぶ。敷地内の道が整備されているからできる技だな。うちの学校じゃこうはいかない。


「コート横ベンチにジャグ置いておきます!青のジャグは氷帝用なので飲まないでくださーい!」
「深雪、ここに置いとけばいいの?」
「うん、ありがとう。ついでに貼り紙もしておきましょ」


深雪がコート内で打ち合いをしている人たちに声をかけると体育会系な返事が返ってきた。そして深雪は日陰に用意された事務机からスコア用紙とペンを取り、裏に大きく氷帝用と書き込んで貼りつける。うん、これなら間違えようがない。

深雪は腕時計を確認すると、もうすぐ相手校が来るから迎えに行ってくるわと校門の方へ走って行った。邪魔になるからと一つに括られた長い髪。以前よりさらに魅力を増した深雪が眩しくて仕方ない。


「パシリご苦労さん」
「あ?…って、なんだ仁王先輩か」
「…ハンとジンはおらんの?」
「へ」


なんだかイラッとくる言い方にイラッとしながら振り返れば白髪をふわふわと揺らす仁王先輩がいた。柳先輩だったら「言い方がダメ。もっと取引先に言うみたいに」と冗談のひとつでも言ってやろうかと思ったのに。私が何か言うより早くこてん、と首を傾げた仁王先輩に思わず二度見。辺りを見回す顔はどことなく寂しげに見えないこともないような気がしないでもないような…。


「さすがに…学校には連れてこないですよ」
「プリッ」
「あの、練習試合って何時頃終わります?あれだったら時間見計らってこっちまで散歩に…」
「四時じゃ!…いや、もろもろの片付け終わらせたら五時か…」


今の私の間抜け面といったらない。見開いた目に開いた口は塞がらず、中途半端に持ち上げられた手が宙で不格好にぶら下がっている。なんだこれ、誰だこれ、嘘だろおい、なんでそんなキラキラした顔をしているんだ。そんなにハンとジンが好きか。…ちくしょう。負けた。


「じゃあ四時前にまた来ます。深雪の手伝いもしたいんで」
「ハンとジンは?」
「できればそこの木陰の所につながせてもらいたいんですけど」
「分かった。真田に頼んでおくナリ」
「…ハンとジンが好きですか?」
「俺が嫌っとるように見えるか?」


あ、いつもの仁王先輩に戻った。キラキラしていたのが一瞬にして鳴りを潜め、見慣れた不敵な笑みだけが浮いている。質問に質問で返すとはいい度胸だ。こっちの仁王先輩はよく分からないから好きじゃない、なんて思ったがこっちってどっちだと自分で突っ込みたくなった。笑おうが泣こうが仁王先輩なのに変わりはないのに。

まあ、あえて言わせていただくとすれば、


「さっきみたいな顔の方が私は好きです」


ということか。




もっと笑って

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