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素敵な彼らが魅了する



柳先輩があれやこれやと根掘り葉掘り聞いてきた時点で嫌な予感はしていた。何が言いたいかと言うと、残念なことにその嫌な予感が的中してしまったらしいということだ。


「なんでいるんですか」
「柳にたぶん今日ならいるだろうって聞いたから?」
「ねえ赤也、このガムの人どうにかして。あとそっちの白髪の人と柳先輩も」
「無茶言うな」


そろそろ晩ご飯だからいったん家に帰ろうと思っていたのに。やって来たのは招かれざる客計四名。丸井先輩が弟たちからディスクドッグの話を聞いて、それを聞いた赤也が面白半分で一緒に行くと言い出して、仁王先輩は映画を見に行くまでの時間潰しがてら便乗して、柳先輩は赤也に連れてこられたらしい。ほぼ赤也が原因じゃねえか。こいついい加減にしろよという念を込めて睨んでみたが奴はきょとん顔で首を傾げるだけだった。


「あ、そんなことより…深雪は無理してませんか?人一倍責任感が強いからキツくてもキツイと思わずに無茶するところがあって心配なんですけど…」
「ようやってくれとるのは確かぜよ。けどそれが無理しとるんかどうかは知らん」
「知らんとはなんですか知らんとは」
「俺が決めることじゃなか」


意外にも、私の質問に答えたのは仁王先輩だった。目を閉じて首に手を当てるその姿は、見方によっては面倒臭いだけにも見えるし言葉を濁そうとしているようにも見える。なんにせよ隙ありだ。腹いせに膝かっくんをしてやろうとしたのだが足の長さが違いすぎてふくらはぎに膝が刺さってしまった。おいおいなんてこった。


「プリッ。痛いのう」
「痛いのは私のハートの方ですよ!なんなんですかもう嫌味なくらい足が長いですね!」
「それ貶してんの褒めてんの」
「男女の差だ。気にすることはないぞ」
「だっせー!佳澄足みじけーな!」
「赤也てめえ歯ぁ食いしばれ」


と、冗談はこの辺にして。私も技を誰かに見て判断してもらいたいと思っていたのでちゃっちゃと見せてちゃっちゃと帰ろうと思う。

それまで赤也と丸井先輩に揉みくちゃにされていたハンとジンを呼び、まずはハンだけスタンバイ。股下をくぐらせ、遠目に一枚目のフリスビーを投げる。二枚、三枚と徐々に近づけ、四枚目をまた遠くに投げ、最後は太股を足場にしてのキャッチで終了。おお、という声が地味に恥ずかしかったのですぐにジンの演技へ移行します。

ジンはスルーが苦手だ。最初から遠くへ飛ばし、続けざまにタップのコマンドを出す。そして馬跳びのような格好の私の背中へ乗せ、そのままステイ。差し出すように投げたフリスビーをくわえて少し走り、距離を整えるためにもう一度フリスビーを投げる。最後はまた馬跳びのような格好をした私を飛び越えてのキャッチで締めた。

最後のオーバーは私がずっと練習していた技で、投げるタイミングや高さが分からず苦戦していた。それがきれいに決まったものだから喜ばずにはいられない。


「やったー!オーバーできるようになった!ありがとうジン!グッド!大好き!次はハンのチェスト練習しよう!」
「つーかすげえ!なんだよお前!すげえ本格的にやってんじゃん!」
「練習しました!うちの子マジ天才!」
「なあなあ佳澄!俺もやりたい!」
「え、やだよ私これから晩ご飯だもん」
「がーっ!ケチ!ドケチ!」


目に見えてテンションの高い私、赤也、丸井先輩の三人。褒めて褒めてと言わんばかりに尻尾を振る二匹を思い切り撫でて、次はどんな技を練習しようかと考える。ああ、それにしてもうちの子はなんでこんなに素敵に可愛くてかっこよくて最高なんだろうか。

へにゃへにゃと緩みきった表情の私に、柳先輩が「初めて見たからあてになるかは分からないが」と言いつつメモ書きをくれた。そこには私では分からない第三者の視点で見たハンとジン、私のフォームや癖などが書かれている。なんだ柳先輩も天才か。これはとてもありがたかったので深く頭を下げておいた。

そういえば技を見せたあたりから仁王先輩がどことなくそわそわしているような気がするのだが、これは気のせいだろうか。うん、たぶん気のせいだ。そう自己完結した私は四人に手を振って夕飯のために全力疾走で帰宅した。




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