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下調べは万端



ジョギングから帰り、ハンとジンの足をきれいに拭いてやっていたときのこと。ポケットに入れていた携帯がメールの受信を報せた。差出人は柳先輩。また対戦のお誘いだろうと思ったのだが、文頭にあったのは「答えられる範囲で構わないから」という前置きの言葉。そして以下質問の羅列である。


「なんぞこれ」


思わず首を傾げた。質問の数は多いし、意図は分からないし、答えるのも面倒だし。手っ取り早く電話をかけた方が良さそうなのだが、うまいこと言い包められて終わる確率99%。よし、ここはスルーの方向で…。


「うわあああ電話!?げっ!間違って出ちゃったじゃないですか!」
『電話は出るものだから間違いではないだろう』
「出たくない相手の場合は間違いにもなります」
『それを俺に言うのか』


電話口の声が呆れたように笑った。思えば柳先輩と直接会って話したのは数えるほどしかないのに、毎日のようにメールをしたりWi-Fiで対戦をしているせいかとても気安い関係になっている。ふむ。いつの間にか赤也だけでなく私までお世話になっていたというわけか。


「で、質問ってなんですか?」
『ほう、答える気はないのだとばかり思っていたが』
「いつもお世話になっているのでいいかなあと思いまして」
『下からなのか上からなのかよく分からない物言いだな』


お前と話していると飽きないな、とまた笑われて、よく分からないが柳先輩が楽しそうなので良しとすることにした。

リビングに行くと仕事から帰ったお父さんがテレビを見ながら晩ご飯を食べていた。お互いにお帰りの言葉をかけて、私はソファに寝そべる。さあ、バッチこいだぜ。


「まずは何からいきます?」
『そうだな、一番興味深いのは飛川の一日のスケジュールだ』
「え、かなり斜め上なんですが。それのどこら辺が興味深いんですか?」
『お前の目撃情報の時間、範囲ともに広すぎて掴みきれない』


目撃情報って…。ここは突っ込まない方がいいのだろうか。沙耶の後輩も私を見たと言っていたらしいし、その前は丸井先輩の弟くんたちも公園に来たし、どうにも最近変に目立つようになった気がする。あ、これが自意識過剰ってやつか。なるほどなるほど。


「ジョギングのコースは毎日変えてますけど、だいたい一小から三小の学区くらいは行動範囲です」
『…なるほど、そういうわけか。ちなみに時間は?』
「学校から帰ったらすぐ公園に行きます。夕飯までディスクドッグの練習をして、夕飯の後にジョギング。その後に公園に行く日もあれば行かない日もありますし、順番が違うこともあります」


その日の気分とその日の気温次第で私の行き先はころころ変わる。さすがに雨の日はジョギングできないし、二匹に犬用レインコートを着せて散歩に出る程度だ。

それからジョギングで走る時間や距離だったりこの間の体力測定の結果だったり部活に所属していないことだったりを大まかに説明し、柳先輩が満足したところで質問責めは終了となった。

最後の「参考になった」という言葉の意味が気になるところだが、あまり深く考えたくない。




下調べは万端

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