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日頃の成果



体力測定、シャトルラン。恐らくこの単語が嫌いな女の子はたくさんいるだろうが、少なくとも私と沙耶は違った。


「今年はぜってー百超えてやる」
「沙耶去年いくつだったっけ?」
「五十ちょい。まだ部活入ったばっかで体力なかったし」
「え!?さーやが!?意外!」
「あたし運動神経鈍いよ。短距離とかすげー苦手だし」
「ますます意外…」
「よく言われる。で、佳澄の目標は?」
「私も百超え」
「おっしゃ勝負だ」


男子がシャトルランを行っている間、女子はステージからそれを眺めて待機していた。規則的に上がって下がる音階。景色も何も変わらず、十を超えるごとに速くなるテンポに段々と減っていく走者たち。軽い拷問に見えなくもない光景である。

そうして最後の一人が足を止めたところで男子は終了。だれだれくんすごいね、かっこいいねという声がちらほら飛び交っていたが、すでに本気モードに入っていた私と沙耶は我先にとステージから飛び降りたのであまり聞いていなかった。


「よう、お前隣のクラスだったんだな」
「あ?ああ、友井か。何回だった?」
「バーカ。最後まで残ってたの俺だし」
「え、マジで」
「マジマジ」


だらだらと汗を流す元クラスメイト、友井は肩口で乱暴に汗を拭って呆れたように笑った。なぜか見といてやるから精々頑張れよ、と中途半端な声援をいただいたので精々頑張ってやろうと思う。

走り終わった奴はラインの外で待機、すぐに止まらないで少し歩けよという先生の指示が飛び、シャトルランの放送が流れ始めた。文化部の子たちはお決まりの一緒に走ろうねを実行中で、運動部の子たちは割と本気の目をして走っている。

早歩き程度のテンポから徐々に速くなり、五十を超えた辺りで人数は半分ほどに。これくらい減れば走りやすい。まだまだ余裕のある私と沙耶はお互いを意識しすぎないよう距離を空けて走っている。そして七十を超えた頃、運動部以外で残っているのは私だけとなっていた。


「佳澄ちゃんすごーい!何部だっけ?」
「あれ?佳澄って帰宅部じゃなかった?」
「うそ、もったいない!」


なんて会話が聞こえたりもしたが、集中しているので返事をする余裕はない。リズムを崩さないよう息と歩幅を整え、残っている面子をちらりと見る。沙耶を含めバスケ部の子が数人と、テニス部の子に、バレー部、陸上部…なんだよ私すごく浮いてるじゃないか。よし、頑張ろう。

そして、とうとうアナウンスが九十回を告げる。残っているのは四、五人程度。止まって走ってを繰り返すから必要以上に足に負荷がかかる。あと少しで百。沙耶はまだ走っている。額から流れる汗を乱暴に拭って、テンションの上がった私はついへらりとした笑みを浮かべてしまった。


「沙耶と佳澄百超えたー!」
「笑ってんな佳澄ー!」
「二人ともがんばれー!」


クラスで残っているのは私と沙耶だけ。そして百を超えてすぐ、隣のクラスの女子が脱落した。もう私と沙耶しか走っていない。というか沙耶、去年は五十くらいだったのに今年は倍も走ってるじゃないか。やっぱり沙耶はすごい。…ああ、脇腹は痛くないけど足の感覚がない。百十。うへ、もう限界。


「おい飛川ー!急に止まるな!ちゃんと歩けー!」
「う…うす…」


百十二回。そこで体力の限界を感じて足を止めた。とりあえず滝のごとく流れる汗を拭いたかったのだが、体育教師に歩けと言われたので渋々歩き出す。沙耶は百二十という切りのいい数字で走るのをやめた。体操服をつまんで煽ぐ姿は、汗を滴らせていても文句なしに爽やカッコいいのでいいなあと思った。


「お疲れ。あー…ホント佳澄に負けたらどうしようかと思った」
「私もけっこう自信あったんだけどね、沙耶の方がすごかった」
「そりゃあ毎日部活で走り込んでるから…って佳澄もか。今年入った子があんたのこと見たって言ってたよ」
「え、マジで」
「マジだ」


なんとびっくり。二小の子だろうか。でもここのところ二小の学区以外にも走りに行ったりしているし、心当たりが多すぎると言えば多すぎるような。まあきっとこの先会うこともないので気にしないことにした。

そしてみんなでだらだらと記録用紙に書き込んでいると男子の一団を抜けて友井がやってきた。お前ら二人ともすげーな、と私と沙耶を褒めてくれたのだが、すぐに他の女子に友井くんもすごいよと褒められて逆に照れていた。ふふふ、顔が赤いぜ友井くん。




日頃の成果

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