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急募、マネージャー


新学期に入って間もなく。入学式も終わり、なんとなくクラスメイトの顔も覚えたかなあという頃。私はなぜか二本の電話相談を受けていた。


『急に電話してごめんなさい…。佳澄に相談に乗ってもらいたいことがあったの』


まず、一本目の電話は深雪からだった。私はハンとジンのトイレを片付けているところだったので慌てて手を洗いに行って電話をかけ直した。

そして開口一番、深雪の元気のない声が聞こえて頭が真っ白になった。まさか学校で何かあったのかとか、親に何かあったのかとか、そういう悪い想像が一気に脳内を駆け巡ったのだ。実際は全くの的外れだったけど。


『赤也にね、テニス部のマネージャーをやってくれないかって頼まれたの。…私が運動音痴だって知ってるくせに』
「マネージャー!?なんでまた急に…」
『一年生が入って部員が増えたからサポートしてくれる人が欲しいんですって」


曰く、立海は部活動か委員会に所属することが強制されていて、手の空いている人を新たに探すのは大変らしい。それに信頼のおける人物となると更に限定されてしまう。そこで白羽の矢が立ったのが深雪だったというわけだ。今まで所属していた部が廃部になって手が空いており、なおかつ赤也と古い付き合いで信頼のおける人物と分かっている。まあたしかに、私でも深雪に頼むなあと思った。


「深雪はやりたくないの?」
『…せっかく私を頼ってくれたんだもの、できることならやりたいわ。でも足を引っ張ってしまわないか不安で…』
「じゃあ一週間だけ仮入部でやらせてもらうとかはどう?」
『ああ…そうね、それで向こうに不都合がないか見てもらえるなら。明日早速聞いてみるわ』
「うん、頑張ってね。私で手伝えることならなんでもするから」
『ふふふ、ありがとう。私も頑張ってみる』


深雪の声は不満、というより不安げな声だった。だからなんとなく、やりたくないわけじゃないんだろうなと想像がついた。実際にやってみてどうなるかは分からないが、そこは深雪のことをよく知っている赤也がサポート…してくれるといいんだが正直あいつに期待はできない。引き受けることを奨めた手前、これからこまめに連絡を取ろうと思う。

さて、一本目の相談電話は深雪からのものだった。二本目の電話は個人的にとても意外な人物からである。


『もしもし、今話していても大丈夫か?』


未だ耳に馴染みのない落ち着いた声。なんと、柳先輩からである。時間からして部活が終わった頃だろうか。後ろで人の声が聞こえるからまだ部室にいるのかもしれない。


「はい、大丈夫ですけど…。メールじゃないって珍しいですね、何か大事な話ですか?」
『恐らく古怒田から聞いていると思うが、マネージャーの件だ』
「ああ、それならたしかに聞きましたよ」
『そうか。古怒田はなんと言っていた?』
「えっと…私が言っていいことか分からないので、明日本人から聞いてください。たぶん深雪から話があると思うので」
『分かった。それが聞けただけで十分だ』


連絡先を交換して以来、柳先輩とはポケモンのことでちょくちょくメールのやりとりをしていた。しかし電話がかかってきたのは恐らくこれが初めてだ。どうにも先を見透かしたような言葉が多いのは柳先輩だから仕方ない。というかこれは相談電話とは言わないな。確認電話だ。

会話の合間、電話越しに早く帰りましょうよと赤也の拗ねたような声が聞こえた。柳先輩はそれに小さく笑い、赤也がこう言っているからと言ってお礼とともに電話を切った。

あいつはどうにも弟気質に拍車がかかっているような気がしてならない。先輩方は甘やかしすぎではないだろうか。いや待て、真田先輩の顔を思い出したらなんとなく飴と鞭のバランスが取れているような気がしてきた。これ以上は深く考えないことにしよう。

それにこれからは深雪も面倒を見てくれるだろうし、ね。




急募、マネージャー

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