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仲が良いとは思わない


四月。春休みが終わり始業式があった。新しいクラスに知っている子はいるだろうかとそわそわしてしまったのだが、沙耶とまた同じクラスになってこれはもう腐れ縁だなと二人で笑った。

沙耶からもらったイギリス土産は紅茶と奇抜なポストカードの詰め合わせ。紅茶は分かるがパンツ型ポストカードは…たぶん沙耶の趣味だ。こういうパンチの効いたものが好きだから。見ているだけでも楽しいので後できちんと部屋に飾ろうと思う。

始業式の後、新しいクラスで自己紹介を簡単に済ませ、学校は午前中で終了となった。先生方は入学式まで準備やらなんやらで忙しいらしく、沙耶も部活動はお休み。じゃあ一緒にファミレスでも行こうか…という流れは他の連中、ひいては他校生も同じだった。


「なんじゃ、また会ったのう」
「げっ!」


店の混み具合を見て場所を変えるか沙耶と相談していたら、ドリンクバーのグラスを持った白髪頭がひょっこりと現れた。思わず顔をしかめて後ずさった私に沙耶は首を傾げている。

まさかと思って客席を覗いてみれば見慣れたワカメ頭もあるではないか。というか丸井先輩とか他の先輩もみんないる。くそ、なんでよりによって仁王先輩に見つかったんだ。


「えーっと、前に初詣で会った…」
「仁王じゃ。おまんらは誰かと待ち合わせでもしとるんか?」
「いえ、空いてないみたいなんで場所変えようか相談してたところっす」
「というか帰ります。さようなら」
「まあ待ちんしゃい。俺らが七人で八人席使っとるからあと二人くらい詰めれば入るじゃろ」
「え、いいんすか?」
「構わんぜよ」


よくねーよ!という心の叫びは二人に届かない。ご一緒さまですかと確認に来た店員と二言三言交わし、さっさとテニス部のいる席へ行ってしまった。案の定、私たちに気づいた赤也がなんでいるんだよと騒ぎ始めている。

詰めれば座れると言うがガタイのいい男ばかり(二名除く)の席にそんなスペースはない。先輩方が微妙な顔をしてくれれば空気を読んで帰れるのに。残念なことに立ってないで座れよと笑顔で言われてしまったのでそれもできなかった。とりあえず私はお誕生日席にしてもらおう。


「なんだよ、お前らも今日始業式?」
「そうだよ。…本当は混んでるみたいだから帰りたかったんだけど」
「佳澄、仁王先輩となんかあったの?」
「まだハンとジンが懐いたの根に持ってんのかよ」
「それは解決したからもういい」
「?よくわかんねー」


別にハンとジンの件もパッチンガムの件も根に持っているわけではない。ただ、それらを総合して苦手だと思ってしまったのだ。今だって自分で引っ張って来たくせに一番奥の柳生先輩の隣でストローかじって遊んでるし。幸村先輩も大概よく分からないが、仁王先輩は苦手な“よく分からない”だなあと思う。

そんな私たちのやりとりをじっと見ていた丸井先輩。なぜか先に頼んだらしいパフェを食べていたのだが、ソファ側、丸井先輩の手前に座っていた赤也を押しのけるようにしてこちらへにじり寄って来た。


「パッチンガム」
「…仁王先輩から聞いたんですか」
「俺も今日早速引っかかってさ、そん時教えてもらった」
「私は暗かったのとタイミングがあれだったから引っかかっただけです。丸井先輩とは違います」
「おいこらどういう意味だ」
「丸井先輩、パッチンガムってなんの話っすか?」
「お前もその内分かる」


丸井先輩は暗にその内引っかかると言ってまたパフェを食べ始めた。赤也はその意味が分からず首を傾げている。

それまでじっとメニューと睨めっこをしていた沙耶が「あんたにも仲の良い先輩ができて良かったじゃん」と笑ったが私は「ええ…」と変な顔をすることしかできなかった。




仲が良いとは思わない

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