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テニス部見学


立海対青学の試合が始まった。一年の幸弘はベンチだが、二年のかず兄はスタメン入りしている。右に左に転がるボールを目線だけで追いかけ、青春だなあと呟く私はいつも青春からほど遠い場所にいる気がする。

幸弘に聞いたら男バスは練習試合で他校に行っているらしく、たっちゃんには会えないことが分かった。代わりと言ってはなんだが男テニは一日練習だからコートに行けば見れるんじゃね?と教えてもらった、ものの…。


「偵察すご。近寄れん」


フェンスに貼り付く人の群れ。ビデオカメラを回していたり、ノートに何かを書き込んでいたり、ストップウォッチで計ったりと皆さん大忙しである。他にはちらほらと女の子の姿もあり、頬を赤らめつつもコートを見つめる眼差しは真剣そのもので、ああここでも青春がとなんだか居たたまれない気持ちになった。

するとどうだ、女の子の内の一人が私に気づいてこちらへ向かって歩いてくるではないか。最初はトイレにでも行くのかと思ったが、さすがに目の前で立ち止まられれば私に用があるのだと分かる。


「あなたも誰かの応援?」
「いえ、友達が練習してるって聞いて覗きに来ただけなんですけど…なんかすごいからもう帰ろうかと」
「見ずに帰るなんてもったいないわよ。ちょっとこっちに来なさい」


そう言って彼女は私の手をぐいぐい引っ張って歩き出した。私の「え、いや、あの…?」という戸惑った声は丸無視だ。いっそ清々しい。そのまま女の子が固まっている場所まで連れて行かれ、ちょっとだけ空けてくれる?と声をかけてはしっこに一人分くらいのスペースを作ってくれた。多少強引な感じは否めないがいい人なのかもしれない。


「春休みが明けたら新入生が入るから一年生はみんなしごかれてるの。練習のレベルも高いでしょ?」
「偵察もね、早い内からヤバそうな新人チェックに来てるんだよねー」
「何せうちの学校は全国二連覇してるから」


右から左から、さらにそのまた隣からぽんぽんと説明をされて私は初めて知る事実に目を見開いた。なんとなく他校生と知られない方がいい気がして黙っていたのだが、注目の新人は断トツで切原赤也くんね、なんて言われては開いた口も塞がらない。全国二連覇の強豪校で注目の新人…よく分からないがすごいぞ赤也。

彼女たちが言うに来年度の立海は向かうところ敵なし、過去に類を見ないほどの強者ぞろいになるらしい。ダブルスの仁王くん・柳生くんのペア、丸井くん・ジャッカルくんのペア、シングルスは柳くん、真田くん、一年生の切原くん、みんなすごいわよね!なんて言われてみろ。あまりの知り合い率の高さに冗談抜きで白目を剥いた。


「幸村くんも早く復帰できればいいんだけれど…」
「幸村って…部長さんでしたっけ?」
「そうそう。今病気で入院中なんだよねー」
「ちょっと前まで偵察連中が“神の子がいなければ立海も倒せる!”なんて騒いで煩かったっけ」
「だからって殴りかかるのはやめなさい。テニス部に迷惑がかかるじゃない」
「だってさー」


何やら身内ネタで盛り上がり始めてしまったので、ところどころ分からない話が多い。しかし、彼女たちの話を聞いていて思ったことがひとつある。


(立海のテニス部って愛されてるなあ)


見目麗しい方々が多いというのも理由のひとつだろうが、何より彼女たちはテニス部を誇りに思っているようだった。恋する乙女の顔をして、ボールを追いかける彼らを視線で追いかける。…青春だ。


「柳くん…なんて涼やかなの…」
「丸井くんってば相変わらずかわいー」
「んー、私はやっぱり真田くんがいいなー」
「「「渋っ!」」」


…まあ、好みは人それぞれだと思います。




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