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親しいからこそ


部屋に貼られたカレンダーを破り、私はその場に崩れ落ちた。三月、それすなわち春であり死刑宣告にも似た以下略…とりあえず死ぬ。もうここから八月までは延々と死のカウントダウンが続く。あ、やめよう。本気で泣きたくなってきた。

母に尻を叩かれる勢いで家を追い出され、学校へ着いても私のテンションは変わらず…むしろ陽が出てきて暖かくなったので下降の一途を辿っている。自分の席につくなり机に額を落として大きく溜め息をついた。


「はあ…冬が終わった…」
「おはよ。佳澄がそうなると春が来たって気がするわ。まだ寒いけど」
「…はよっす。北国行きたい」
「北国で思い出した。あたし春休みになったらイギリス行くから来週には幸村先輩のお見舞い行くぞ」
「裏切り者おおお!」
「なんとでも言え」


意地悪く口の端を持ち上げる沙耶は、小学校の頃はしょっちゅう家族で海外旅行に行っていた。中学に上がってから夏は大会や合宿で行けず、冬休みは短くて足りなかったから春休みに、ということらしい。うらやましいこと山のごとしだ。だってイギリスって日本より北じゃないか。

幸村先輩へのプレゼント一式はすでに購入済み。B5サイズのスケッチブックに、ブリなんちゃらという白くておしゃれなじょうろ。誕生日にじょうろってどうよというツッコミは母だけで間に合ってます。


「イギリス土産、何がいい?」
「食べ物」
「…それ本気で言ってんの?」
「え?…ああ、そっか、うん、食べ物以外でお願いします」
「おう。食い意地張るのもほどほどにな」


机に書いた井型の格子に○と×が埋まっていく。一回では勝負がつかず、二回戦に突入したところで沙耶の顔色が悪くなった。


「あ」
「え、なんか間違えた?」
「違う。お見舞いのこと深雪に話してねえ」
「あ」


今度は私の顔もさっと青くなったことだろう。学校が離れてもなんだかんだ私たち三人はセットのようなものだったのに、今回の幸村先輩の誕生日計画のことは深雪に話していない。

私は慌てて“緊急!幸村先輩の誕生日について”というタイトルのメールを深雪に送った。沙耶と二人ではらはらしながら返信を待つこと五分。ホームルームはとっくに始まっていたが、手に握った携帯が震えたので担任の目を盗むようにしてメールを開いた。


『幸村先輩のお見舞い、私も一緒に行っていい?誕生日プレゼントは別に用意するわね。あと、次は私のことも忘れないように』


拗ねたような絵文字に彩られたメールは恐らく深雪の本心。気にしないで、なんてありきたりな言葉がなかったことが妙に嬉しくてテンションの高い土下座デコメを送信した。さらに五分後、許してあげるとウインクの可愛い絵文字が返ってきたことにによによしていたら担任に頭を叩かれた。携帯は没収されずにすんだが、私の幸せな気持ちは霧散してしまったので利子をつけて返して欲しい。

あーあ、早く深雪に会いたい。




親しいからこそ

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