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愛され系後輩の先輩


赤也を騙すなんざチョロいもんだぜ。

先日、沙耶との作戦会議を終えた私は赤也に「柳先輩もポケモン強いんでしょ?アドレス教えてもらえない?」とメールを送った。返事はお前じゃぜってー勝てねーよ的なイラッとくる文章だったが、とりあえず教えてもいいか柳先輩に聞いてくれるらしい。チョロい。チョロすぎるぜ赤也。

そして私はいつものようにハンとジンを連れて公園へとやってきた。ベンチに置いた携帯は沈黙している。なかなか返事が来ないので少し不安だ。かといって私に待つ以外のことができるはずもなく、フリスビーを投げて遊んでいる次第である。


「本当にこんな時間にいるんだな」
「うお!?」
「いくら番犬がいるとはいえ、夜の一人歩きは感心しない」
「や、柳先輩…?え、どうしてここに?」
「直接話した方がより早く的確な情報が得られると思ったから、とでも言っておこうか」


唐突にかけられた声に、思わずジンから受け取ったフリスビーを落としそうになった。私の背後に立っていたのは涼やかに微笑む柳先輩で、肩にかけられたテニスバッグからして部活帰りだと思われる。

ハンとジンは初めて見る柳先輩の品定めするように見つめると、差し出された手の甲の匂いを嗅いで、額を押し付けて、耳の後ろを掻かれてすぐさま甘えモードに突入。柳先輩の声に少しだけ呆れが混じっているのは気のせいか。


「どうやら番犬には向かないらしい」
「人見知りしないもんで。…えっと、もしかしてアドレスのことでわざわざここまで?」
「ああ。何か事情があるのかと思ったんだ。歩きながら話そうか」
「う、うす」


なんだこれ、どうしてこうなった。最近立海の先輩と公園で会う確率が高すぎやしないだろうか。柳先輩の口振りからして誰かに聞いたみたいだけど…って、赤也しかいないか。丸井先輩と仁王先輩のときも赤也の付き添いで来たみたいだったし、なんと言うか、赤也は先輩たちに大事にされているんだなあとしみじみ思った。きっと先輩たちも赤也に言われたら断れないんだろう。


「俺のアドレスを知りたかったのはゲームのことではなく別の理由があったんじゃないか?」
「あはは、お察しの通りです。幸村先輩のことで少々お尋ねしたいことがありまして」
「大方、病院の場所と誕生日がいつかを知りたかったんだろう。この前見舞いに行ったときに精市がそんなことを言っていた」
「…幸村先輩ってイイ性格してますね」
「俺もそう思う」


本当は幸村先輩がどんな性格なのかも聞こうと思っていたのだが、聞く手間が省けた気がする。恐らく、幸村先輩は分かっていて沙耶に病院の場所も誕生日がいつなのかも教えなかったんだ。謀られたな。

だが分かっているのなら話は早い。先にお見舞いに行っても大丈夫そうかを確認して、病院の場所と誕生日を教えてもらった。柳先輩からのアドバイスとしては、


「誕生日当日は避けた方がいいかもしれないな。門前払い、あるいは厄介事に巻き込まれる確率87%だ」


とのこと。なんだかよく分からないが柳先輩がそう言うならと私は素直に頷いた。

それから結局、柳先輩は私の家まで送ってくれて、せっかくだからと連絡先プラスともだちコードも交換した。本当にゲームするんだと驚いてしまったのもきっと柳先輩にはお見通しなんだろう。




愛され系後輩の先輩

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