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誕生日計画


「っははははは!ねえわ!赤也、この顔…っはははは!傑作!!」
「うわー…すんごい腫れてる。何したの?」
「幸村先輩の、見舞いに、は、鉢植え持ってっておっさん先輩に打たれたって…あーやべ腹痛え」


腹を抱えて涙目になりながら笑う沙耶。手元にある携帯には左頬を腫らした赤也の姿が映されており、その後ろにはご立腹な様子のおっさん先輩こと真田先輩、呆れ顔の柳先輩の姿もある。

メールの送り主は幸村先輩で、赤也が持ってきたという鉢植えの写真も添付されていた。鉢植えは“寝つく”ととれるから見舞いの品に適さないのに。それを知らなかった赤也はガーデニングの好きな幸村先輩にと鉢植えの花を贈ったらしい。見るからに頭の堅そうな真田先輩は激怒、のち一撃という次第だ。


「切り花もいいけど自分で育てる方が好きだから俺としてはありがたかった、だって。幸村先輩大人だわ」
「あ、閃いた。誕生日プレゼントだけどさ、小さいじょうろもつけるのはどう?」
「おー、それいいね。ぞうさんのとか?」
「普通にお洒落なのにしよう」
「冗談だって」


先日、沙耶が幸村先輩に誕生日プレゼントを催促されてからいろいろ考えてはみたが、スケッチブックや筆といった安価なもの以外思いつかず困っていた。なんかこう…お洒落な雰囲気のじょうろなら使わなくとも庭先のインテリアなんかにしてもらえばいいし、他の人と被ることもないだろうし、まあまあ妥当な選択ではないだろうか。

そうと決まれば善は急げ…なのだが沙耶の部活があるので今日すぐにとはいかない。よって作戦決行は日曜日の二時からとなった。贈るものが決まってなんとなくほっとした私たち。少しだけ冷静になった頭でようやく、いろいろと知らないことだらけでまずいのでは?ということを認識した。


「病院知らなくね?」
「私、誕生日がいつかも知らないんだけど」
「三月…何日か」
「マジか」
「マジだ」
「顔も知らないよね?」
「むしろ性格も未だに分かんねえ」
「マジか」
「マジだ」


本格的にまずい。

病院の場所は赤也に聞けば分かる。誕生日も性格も左に同じ。しかしあいつは口が軽いからそのままペロッといらんことまで喋りそうで若干の不安が残ってしまう。深雪もたぶんそこまで幸村先輩のことを知っているわけではないし、そうなると他のテニス部の先輩に聞くということになるのだが…。


「あたし、幸村先輩の連絡先しか知らねえんだけど」
「私は丸井先輩のだけ。でも丸井先輩も喋っちゃいそうな気がするんだよね」
「あー、たしかに」


どことなく丸井先輩は赤也と近いものを感じるのだ。今度あいつら来るんすよー、あ、やべ、今のやっぱなしで!みたいな感じでペロッちまいそうなところが。

幸村先輩の病院、誕生日、性格を知っていてなおかつ口が固くてまあ私たちが聞けなくもないかなあという人。この条件に当てはまる人物を私は一人しか知らない。


「やっぱ柳先輩に聞くっきゃないか」
「私もそう思う」
「赤也ならメアド知ってっかな。悪いけど佳澄聞いてみてくんない?あたしじゃメール放置しそうだし」
「分かった。適当にポケモンで誤魔化して聞いてみる」
「悪いね、シクヨロー」



やる気のない丸井先輩のモノマネに似てないと言ったら似せる気もないという言葉が返ってきた。その内だろい口調も真似するようになったらどうしようと心配してしまったが、これは恐らくいらぬ心配だと思う。




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