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末っ子のようなお兄ちゃん


きゃっきゃとおっかなびっくりではしゃぐ信太と健太を眺め、差し入れのつもりで買って来たお菓子を漁った。丸井先輩が。


「あげるとかまだ一言も言ってないんですけど」
「でもくれるつもりだったんだろ?もう腹減ってぶっ倒れそうなんだよ!」
「そのお腹はなんのために蓄えてあるんですか」
「ラクダのこぶじゃねーし。…つーかお前、会って話すのまだ三回目くらいだよな?すっげえ馴れ馴れしくね?」
「敬わなくていいタイプの先輩かなあと思いまして」
「おい」


真顔で答えたら真顔で裏拳を入れられた。こう言ってはなんだが、丸井先輩は沙耶や深雪とほとんど身長も変わらない上に女顔で、さっぱりした性格が私の不遜な態度に拍車をかけていたりする。あとは勝手にお菓子を食べようとした仕返しだ。

食べる前に手を洗ってくださいと丸井先輩からお菓子を取り上げれば、意外と素直に水道へ向かって歩き出した。しっかり手を洗った丸井先輩に適当なお菓子を放り投げ、じっとしているせいで冷えた鼻先をマフラーに埋める。いつもなら走り回ってるから気にならないけど、動かないでいるとそれなりに冷えるなあ。


「しっかし、色気もへったくれもない格好だな」
「動きやすいに越したことはないんです。じっとしてると寒いですけど」
「だろうな。俺も結構寒い」
「……いや、なんでもないです」
「なんとなく分かった。歯ぁ食いしばれ」
「まだ何も言ってないじゃないですか!」
「目がうるせえんだよ!どうせ“皮下脂肪があるのに?”とかそんなことだろ!」
「自分で言ってて悲しくなりません?」
「…うん」


立ち上がった丸井先輩がすとん、とベンチに座り直す。心なしか哀愁漂う表情になってしまった。さすがに失礼にもほどがあるかと思い直し、赤也から丸井先輩がよく食べると聞いていただけで太っているとは思ってませんから、とフォローする。

すると丸井先輩はそれを先に言えと口を尖らせ、私が先ほど投げたお菓子を貪り始めたのでなんというかさっきしょんぼりしてたのは?と首を傾げたくなった。彼は取り返しのつかないところまで行かないと自制しない気がする。

そもそもこのお菓子は弟くんたちのために買ってきたのに。私が文句を言うより先に丸井先輩は弟くんたちを呼び寄せて口を開けるように言い、順に一口サイズのチョコを放り込んでいった。あ、またお兄ちゃんの顔して笑ってる。


「丸井先輩ってよく分からないですね」
「は?何が」
「いろいろと?」
「お前が聞くな」


それから、私たちは末っ子の健太くんが眠いとぐずり出すまで公園で遊んだ。別れ際、健太くんをおぶった丸井先輩がまたこいつらと遊んでやってくれと笑い、すっかり愛犬たちと打ち解けた信太くんがまた遊んでねと手を振ってくれた。それにほくほくとした気持ちで手を振り返していたのだが、弟くんたちに名前を教えていないと気づくのは家に帰り着いてからのことである。




末っ子のようなお兄ちゃん

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