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手のかかる友人


それは昼休みのこと。給食も終わって五時間目は自習で、私は眠い眠すぎるとぼやきながら机に突っ伏し、沙耶は私の髪を三つ編みにして遊んでいた。髪の毛をいじられるとなおのこと眠くなる。

されるがまま、くあっと欠伸をこぼすと制服のポケットに入れた携帯が震えた。どうせメールだろうと思ったのに、画面に表示される着信中、切原赤也の文字に首を傾げる。とりあえず面倒なので無視することにした。


「出ないの?」
「赤也だからいい」
「ああ、んじゃ無視で……よくねえ。あたしの方にかけてきやがった」


そんなに急ぎの用だったのか。爪の先くらいの罪悪感に駆られるも、やっぱり眠気の方が勝って欠伸をこぼす。スピーカーから微かに聴こえる赤也の声はたしかに焦っていて、だけど沙耶は「っざけんな馬鹿!くだらねえ!」と怒鳴るなり通話を切った。勇ましいことこの上ない。


「赤也、なんだって?」
「ポケモンで幸弘に勝てないからどうやったら勝てるかだとさ」
「馬鹿だなー。幸弘は厳選してるから赤也じゃ無理だって」
「その前に頭の出来が違うって。幸弘はあれでも勉強できるし」


と、散々こけにしながら私たちは二人そろって携帯の電源を切った。これ以上赤也のくだらない電話&メールに付き合わされないようにするためだ。ああ、幸弘の高笑いが聞こえてきそうな気がする。

携帯の電源を切っていたため、五時間目は実に静かに惰眠を貪ることができた。帰る頃になってようやくそのことを思い出し、電源を入れるなり届く不在着信とメールの山。思わずもう一度電源を切りたくなったのは致し方ない。

着信もメールも大半が赤也で、特性がどうのタイプがどうの、努力値って何、無視すんな馬鹿エトセトラ。とりあえず返信の必要そうなメールは……あった。


“今週の日曜が午前中で練習終わんだけど、午後から空いてねえ?”


丸井先輩だ。たぶん弟くんのことだろうと思い、すぐに空いてますと絵文字も顔文字もない文面を送った。きっとこれから部活だから返事が来るのは夜だな。いちおうマナーモードは解除して気にかけておこう。

そしてハンとジンの散歩中、部活が終わったであろう時間に携帯が鳴ったのだが、反射的に出た電話口からは「無視すんじゃねー!」という赤也の喧しい声が聞こえて非常にイラッときた。


「いい度胸だ。今から迎えに行くから現在地言え」
『だって沙耶も佳澄も無視するから…!』
「そりゃ無視もしたくなる」
『んだよそれ!なー、努力値?ってのだけでも教えてくれよ!』


私の説明で赤也のおつむに努力値の仕組みを理解させる自信はない。もう面倒くさいから丸井先輩にでも聞けと言ったらなんで丸井先輩なのかと聞き返された。それはあれだ、弟が二人もいるらしいしポケモンにも詳しいんじゃないかと思ったからだ。

しかし今度はなんで弟がいるのを知っているのかとうるさいうるさい。最終的には一方的に通話を切って電源も切ってやった。しばらく着信受信拒否にしてやろう迷ったが、それはそれで面倒くさいのでやめておいた。どうせ明日になれば忘れるだろう。お互いに。




手のかかる友人

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