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面倒見のいいお兄ちゃん


ハンとジンを連れてのジョギング中、部活帰りらしい丸井先輩に遭遇した。膨らんだ風船ガムが音を立てて割れる。ども、と挨拶するとどもども、と返ってきたがすぐにいやそうじゃなくてと詰め寄られた。


「こんな時間に何してんだよ」
「ジョギング兼散歩です」
「部活とかやってんだっけ?」
「ハンとジンの散歩があるんで入ってないです」
「ああそう…」


なんだか脱力してしまったように見えるのはなぜですか丸井先輩。私は至って大真面目。言っておくが、体を動かすことは基本的に好きなので余裕があれば部活にも入りたかったと思っている。まあそんな余裕があればハンとジンとの時間に回すわということで今の私が成り立っているわけですが。

丸井先輩はハンをわしゃわしゃ撫でて遊んでいる。ジンはその隣で行儀よく順番待ちしていてああホント天使。天使と言えば、


「この前長野のおじいちゃんちに行ったんですけど、その時の写真見てください」
「あれだろい?雪だるま乗っけたやつとか」
「え、私丸井先輩のアド知ってましたっけ」
「赤也に写メ送ってもらった」


そう言って、丸井先輩はポケットから携帯を取り出すと待ち受け画面を見せてきた。大事なことなので二回言います。“待ち受け画面を”見せてきた。


「ここここれ…!」
「面白いから待ち受けにしてやったぜ」
「うわあハンとジンがよそ様の携帯に…!」
「見た目は厳ついけどなんか俺の弟に似てんだよな、大きさの違いとか」
「え、丸井先輩って弟いるんですか?」
「おう。五歳と八歳が」


なるほど。ハンとジンは体格差があるしそういうふうに見えないこともないかもしれない。実際は二匹とも五歳だけど。でも丸井先輩がお兄ちゃんというのは意外だ。ジャッカル先輩とのやり取りを見る限りでは末っ子という感じがしていたのに、世の中って不思議。

丸井先輩はハンとジンに興味津々で、人懐っこいか、噛んだりしないか、吠えたりしないかといろいろ聞いてきた。見知らぬ犬には吠えたりもするが、シベリアン・ハスキーという犬種は人に対してとても友好的。特にうちの子たちは公園で初対面の子供と遊ぶことも多いので、子供の方が攻撃的な態度を取らない限りまず問題は起きない。

以上を聞いて、丸井先輩は何かを考えるように視線を斜め上へと走らせた。その間もハンとジンをわしゃわしゃする手は止まらない。なんか扱いに慣れてるな。


「公園って緑地公園のことだろ?俺んちからだとちょっと遠いんだよなー」
「はあ」
「待ち受け見せたら弟たちが本物見たいって騒いでたんだよ。だから見せてやりたいと思ったんだけど」
「ああ、そういうことですか。なんなら散歩コースそっちまで伸ばしますけど」
「マジかよ!?三小の方なんだけど遠くねえ?」
「大丈夫です。十分行動範囲なんで」
「よっしゃ!んじゃ早速写メ撮らせろい」


突っ立ったままの私、大人しくおすわりするハンとジンをパシャリと撮って、丸井先輩は満足気に頷いた。私まで入る必要はあったのかと疑問に思ったが、弟くんたちに会うときに顔が分かっていた方がいいからかとすぐに納得した。そして連絡用にアドレスを交換し、軽く手を振り合いながら帰路につく。ああ、私もあんなお兄ちゃんなら欲しかったかもしれない。




面倒見のいいお兄ちゃん

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